泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第39話>
<第39回>
詳しいことは何も書かず、『ごめんなさい、さようなら』と無責任な言葉だけをメモに綴り、彼の家をこっそり訪ねて、2センチだけ開いていた窓の隙間から滑り落とした。そんな別れ方でもちろん彼が納得するわけはない。
両親がわたしにたどり着くその1年前、……つまり故郷を捨てて2年後、わたしの前に彼は現れた。
「見つけたらすぐお前の親に報告するつもりだったけど。どうすりゃいいんだよ、こんなお前のこと、とても親に伝えられないじゃないか」
いきなりそんなふうに言われたものだから、大ゲンカになった。風俗で働いたってAVに出たって、わたしはわたしなのに。何も東京で体を売って大金を手に入れて、遊びほうけていたわけじゃない。辛い思いだってたくさんしてきた、1人ぼっちで寂しかった、誰も頼れなかった、それでも帰れなかった、今さら。そんな気持ちをいっさい無視されたら、わたしだって意地になる。
あなたよりも仕事を取る、親の借金を返しきるまであの町には帰らないと言うと、彼はわかったと吐き捨てた。
軽蔑しきった表情が、最後に見た彼の顔だった。
ひどい別れ方をして気になって、それから一週間後、勇気を振り絞って故郷を訪れた。2年ぶりの帰郷で、ホームに降りた時、膝下が震えた。
まず目指したのは何度も招かれ、家族と過ごすこともあった彼の家だった。
懐かしい彼の家ではお通夜が開かれていた。田舎の葬儀は自宅で行われることも珍しくない。
最初、彼にはだいぶ歳とったおじいさんがいたから、その人かと思った。予想に反して、白と黒の垂れ幕の間には信じられない名前が書いてあった。
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