Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第3話>

2014-01-21 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,282 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Kiyomi 連載小説 風俗嬢の恋


 

JESSIE

 

<第3話>

 

そう、あたしは頭が悪い上、プライドも高い。

 

バカにされた時、必要以上に腹が立つ。

 

こんな仕事をしているくせに? いやむしろ、こんな仕事をしているから、なのかもしれない。

 

どっちにしろ、と富樫さんがひとつ咳払いして言った。右手からタバコの煙が白く上がっている。

 

「どっちにしろ、うちじゃもう無理なんだ」

「無理って。そんなのないよ、なんとかしてよ」

「俺にはどれも。俺の立場はただの雇われ店長、サラリーマンも同然なんだ。上からの指示に従うしかない」

「何よ、カス」

 

すっぽんぽんのままベッドから這い出し、けだるそうに横たわる富樫さんを見下ろして、言葉を投げつけた。一度堰を切ってしまえば後は止まらず、ボキャブラリィの少ない脳から悪口が次々飛び出す

 

「カス、バカ、うすのろ、役立たず、サイッテー」

 

言葉だけじゃ足らなくなって、クッションにぬいぐるみにティッシュ箱、目についたあらゆるものを投げてやった。壊れたら困るものや後処理が大変なものは意識的に避けて。

 

こんなに頭がじんじん熱くて、お腹の中は黒いものがぐるぐるしているのに、どこかで冷静だ。いっそ完全に感情に飲み込まれてしまえば楽になれそうだけど、そうもいかない。だから苦しい。

 

富樫さんはやめろよと止めたり、叱ったりしなかった。ただ静かにベッドから這い出して、フローリングに転がった服を身につけ、素っ裸で暴れるあたしを哀れむように見下ろして、

 

「仕事行く」

 

と言っただけだった。罵詈雑言を浴びせて引き止めても、行ってしまう。

 

「頭を冷やせ」という一言と共にドアが閉まった。遠ざかっていく足音を追う気力もなく、あたしは立ち尽くしていた。食器棚のガラスにだらしなく太った裸の女が映っていた。

 

テーブルの上にはローソクを立てたケーキの残骸と、富樫さんが買ってきたローストビーフとチーズの食べ残し、そして気の抜けたシャンパンのグラスが放置されている。せっかく、二人きりの甘いバースデーパーティーだったのに。

 

23歳は、こうして最悪の形で幕を開けた。

 

 

 




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