Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第16話>

2014-02-03 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,019 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Kiyomi 連載小説 風俗嬢の恋


 

JESSIE

 

<第16話>

 

白くて細い、イカの触手みたいなつるんとしたりさの腕に、あちこち真っ赤な切り傷や打ち身が出来ていたのを思い出す。

 

富樫さんに抱きかかえられるようにしながら立ち上がったりさは、やられたくせに、逆に申し訳ないという顔であたしを見た。

 

傷ひとつない、きれいなままの顔が恨めしかった。

 

腕なんかいくら傷つけたって意味がない。男たちに好かれるあのロリっぽい顔こそ、ぐちゃぐちゃにしてやりたかったのに。

 

「なんであたしが謝んなきゃいけないのよ。あいつのせいじゃん」

 

冷たい部屋の中、声が反響する。

 

こんなことを言ってもりさにも、あのムカつく常連客にも不良少年たちにも、届かない。富樫さんは何も言ってくれない。

 

無意味な声がむなしく空気に溶ける。

 

「あいつが悪い。何もかも、あいつが」

「……」

「りさが、あいつが、いなければ。あんな奴、うちの店に入ってこなきゃ」

 

ちゃんと分かってる。ほんとは、自分が悪いんだってこと。

 

でもあたしは臆病者で、自分が悪いと認めるだけの勇気がない。

 

そんなに、自分に自信のある人間じゃない。

 

プライドばっかり高くて、ほんとの自己評価なんてめちゃくちゃ低かった。だからこそナンバーワンでいて、稼ぎまくって、洋服も化粧品もバックも好きなだけ買って、安心してたかった。

 

からっぽになったあたしの底で、炎のような憎悪がめらめら盛り上がり、それによってあたしはようやくベッドから起き上がる。富樫さんに突進し、その胸を拳にした両手でどんどん殴った。

 

「なんでよ。なんでなんでなんで。なんであいつが、あんな奴が、ナンバーワンなのよぉ。あたしがあんな子どもみたいなのに負けなきゃいけないのよ」

「これから、どうするつもりだ」

 

感情をそぎ落とした声が拳を止める。

 

 

 




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