Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第7話>

2014-02-14 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,098 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Kaya 連載小説 風俗嬢の恋


 

JESSIE

 

<第7回目>

 

要のテノールの声が震える。

 

「どういうことなんだよ。お前、OLじゃなかったのかよ。俺に嘘ついてたのかよ」

「ごめん……」

「ごめんって言われても」

 

要が頭を抱える。

 

怯えた心臓がバクバクと高鳴り、不吉な鼓動があたしの身体を飲み込んでいった。

 

油断なんかするべきじゃなかった。

 

今までバレないからこれからもバレないなんて、そんな保障、どこにもなかった。後悔したってどうにかなるわけじゃないけれど、後悔せずにいられない。

 

「いつからだよ」

「要と付き合う前から……。もう4年近い」

「マジかよ」

 

要がもう一度、深く息をついた。

 

ダメだと思った。あたしの想像通り、これで要は2度と、あたしを信頼してはくれないだろう。

 

いつかは言わなきゃいけないって、ちゃんとわかってた。こうやってバレる前に、自分から言うべきだって。

 

でも、要の顔を見たら何も言えなくなるし、要を悲しませたり傷つけたりするのは嫌だし、要に嫌われるのは怖いしで、結果、嘘をつき続けてた。

 

嘘をついていてずっと苦しかった。

 

いや、違う。ばれなきゃいいと思ってたのは本当で、好きな仕事でこそなかったものの、今の安定した生活を壊したくなかった。

 

もうちょっとしたらやめなきゃ、あと1年以内にやめなきゃ、早く本当に普通のOLにならなきゃ……。とは思うばかりで、何ひとつ自分の状況を変えられなかった、変えようとしなかった。

 

「親にはなんて言ってるんだよ」

「連絡、取ってない。もうずっと」

「最悪だな」

 

吐き捨てるような言葉に、胸を抉られる。

渇いた涙が頬を濡らした。カップボードのガラスに惨めな泣き顔のあたしが映った。

 

「ごめん。もう無理だよね、あたしたち」

 

こち。こち。こち。

 

止まった時間の中で、三日月形の時計の呟きを聞きながら、あたしに下される判決を待つ。

 

この状況で捨てられたくないなんて、終わりにしたくないなんて、そんな虫のいいこと、言えなかった。

 

言っちゃいけなかった。

 

 

 




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