フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第19話>

2014-03-26 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,072 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Aimi フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<第19話>

 

『藍美、どうなの? そっちは』

「どうって、別になにも」

 

親には風俗嬢になったことはもちろん、私も聡も勤め出した会社をさっそく辞めたことも言っていない。

 

心配かけたくないというのは親を思ってのことじゃなく、心配されたことに付随する面倒くささが煩わしいからで、要は自分のためだ。

 

『聡くんとはうまくいってるの?』

「別に、普通」

『普通って、何よそれ。あんたたちそろそろ結婚しないの? もう、3年も付き合ってるんでしょう?』

「私も聡も、まだ若いよ。私は22歳で、聡は24歳だよ」

 

22歳で結婚というのは、地元では決して早くはないんだけれど。高校時代の同級生で子どもを産んだ子を3人も知っている。

 

しばらく考え込むような間があった後、お母さんは噛んで言い含めるような口調になった。

 

『ねぇ、結婚しないなら、一度こっちに帰ってきたら? 東京の仕事よりいい仕事はないかもしれないけれど、家賃とか払わなくていいんだもの、アルバイトで十分でしょう? それで、おばあちゃんの介護、手伝ってちょうだい。延也も、あんたがいたらしっかりするだろうし。聡くんだって、少し距離を置いたほうが、改めて結婚のこと考えてくれるかもしんないわよ』

 

「……考えとく」

 

物事を、何が何でも自分の都合の良いように進める口調に嫌悪感を覚えて、もう寝るからとさっさと電話を切った。

 

電波が途切れると、街路樹が立てる葉ずれの音がより大きくなった。かさかさかさかさ……。私の代わりに、無数のため息が頭上でこぼれる。

 

もともと実家はあまり居心地のいい場所じゃなかったけれど、自分がこんな状態になってみるともはや2度とあそこには戻りたくないし、戻れない。

 

風俗なんて世界に足を踏み入れた女の子は、親兄弟や親戚、友だち、そういった“普通”の人たちとは一切関わっちゃいけないような気がする。

 

 

 




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