フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第23話>

2014-03-30 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,025 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Aimi フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<第23話>

 

バイブを引き抜かれる。

 

「わかった、もっともっとすごいの入れてあげる。生でも大丈夫、こっちは妊娠しないからね」

「え、何……?」

 

何を、と言い終わらないうちに、強烈な不快感と嫌悪感がせりあがってきて、そこで私は初めて暴れた。

 

さっきのよりずっと熱くて硬くて太い。こんなもの奥まで入れられたら、裂けてしまう。

 

「嫌、だめっ、ちょっ、マジ無理っ」

「いいじゃん、大丈夫だって。あー、気持ちいい。なっ? るいちゃん」

「本当に嫌!!」

 

両手でがっしりお尻を抱え込み、奥へ奥へと突き進もうとする客を全力で振り払う。

 

これ以上進ませたら本当にダメだ、あと3センチ進んだら、あと1センチ進んだら……。泣き叫びながら、腰をよじり、足を振り回した。

 

「いてッ」

 

低い声と共に、腰を掴むしめった手とお尻の不快感が消える。

 

右のかかとが、たしかに客の体のどこかにヒットした感覚があった。

 

這って進んで、客から離れ、ぜいぜい上下している肩を抱える。赤い間接照明が、ぼんやり光を投げている薄暗い部屋の中、お腹をさすりながら、客が今度こそ本当に閻魔様の顔になっていった。

 

殴られると思った。蹴られると思った。

 

実際には、そのどちらもされなかった代わりに、髪の毛を掴んで玄関の外に引きずり出された。一糸まとわぬ体に、冷たい風が容赦なく吹き付ける。荷物と服を投げつけられ、バックのチェーンが当たって額がすぱんと切れた。

 

放心して、流れる赤いものを見つめていると、罵声が降ってくる。

 

「ブスのくせに生意気なんだよ、てめぇ。ブスが普通のことだけして稼げるとでも思ってんのか。ケツぐらいおとなしくやらせろよな!」

 

思い出したように、ローションのボトルとタイマーも投げてよこされる。

 

まだ数字をカウントダウンしていたいちご型のタイマーが、コンクリートの床に当たった衝撃でピッと音を立て、止まった。

 

「風俗嬢が、あれダメこれダメとか言ってんじゃねーよ。男に媚びねーと、生きていけねーんだろうが。お前は社会のクズなんだよ。クズはクズらしくケツ突きだせっての」

 

俯いている私に、客はなおもナイフのような言葉を浴びせ続けていたけれど、エレベーターがチン、と止まるとやっと口をつぐんだ。

 

そして、まだ、何か言いたそうに、穴が空きそうな鋭さで私を睨みつけてから、ドアを閉めた。乱暴な閉め方で、がちゃんとドアが怒鳴った。

 

エレベーターから出てきたのは30歳半ばぐらいの背広姿の男の人で、裸で廊下に転がっている私を見て、思いっきり目を見開いたけれど、ちらちら2度見3度見しつつも、絶対に関わるものかとでも言うように、急ぎ足で私の前を通り過ぎていった。

 

4軒隣のドアが開き、閉まった。

 

 

 




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