フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第15話>

2014-07-18 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,114 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Iori フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<15回目>

 

ダイニングテーブルに肘をついてあくびをすると、思いのほか大きな音が出て、流しでコップを洗っていたお母さんが怪訝な顔で振り返った。

 

野々花は、くまさんハンバーグを食べてお腹がいっぱいになると、早くも眠ってしまった。まだ7時を回ったばかりなのに。やっぱり昨夜眠れなかったのが堪えているらしい。

 

「若い娘がそんな大きなあくびして、色気もそっけもないわね」

 

「もうあんまり若くないし」

 

「24歳じゃないの、十分若いわよ。その荒れた肌にクマじゃあ、34歳に見えそうだけどね」

 

「うるいなぁ、まだスッピンなんだからしょうがないじゃん」

 

「化粧でどうこうって問題じゃないでしょう? ここんとこ、会うたびに疲れた顔して。昼も夜も働いて、ちゃんと寝れてんの?」

 

お母さんは今年54歳。あたしはまったく受け継がなかった小柄で寸胴でがに股気味の骨格には年齢相応の贅肉がつき、パーマを当てた髪にも白いものが目立ってきた。一緒に住んでた頃はわからなかった時間による変化に、最近よく気づく。

 

昔から変わらないのは、あけすけでサッパリした性格。遠慮のないずけずけした物言いに、苛立った時期もあった。

 

でも、今は反抗期を懐かしく振り返ることができる。それは、子どもを産んで仕事をして、まだまだ未熟なところは残しているものの、一応は大人になれたことの証なんだろう。

 

「大丈夫だよ、今日も昼間寝たし」

 

「昼間寝たって、その間保育園で寝た野々花は起きてるんでしょ? 一人にさせてるの?」

 

「一人っていっても同じ家の同じ部屋の中だよ、ちゃんとおとなしく遊んでくれてる。ほんと手のかからない子だよね」

 

「いくらおとなしくたって手がかからないからって、まだ5才なのよ。何が起こるかわからないじゃない」

 

そりゃ、あたしだって心配じゃないわけがない。

 

赤ん坊の頃のように這って進むわけじゃなく、走り回れるし飛び跳ねられるし、椅子を移動させて高いところのものを手に取ることだってできる。

 

もし食器棚の上のお菓子を取ろうとして椅子から転げ落ちたら、あたしの真似をしてカップ麺でも作ろうと火を使って火事を起こしたら……?

 

ドリームガールの後、保育園に預けた野々花を遊ばせているすぐそばで「ママちょっとお昼寝するね」と横になっても、常につきまとう心配のせいで、深く寝れない。

 

不安が生理的欲求に歯止めをかけているんだろう、疲れているのに寝付けないこともあるし、ちょっとしたことで目が覚める。

 

今日も4時間ほどしかまともに寝れてないので、全然疲れが取れていない。待機中、車の中で寝られるから睡眠不足でも、あまり仕事に支障はないけれど。

 

 

 




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