泡のように消えていく…第三章~Amane~<第3話>
<第3話>
「昔、SM趣味だったんですよー。もうやってないけど」
営業用の顔と声で明るく答えると、40歳の始めぐらいのまだらハゲが目立つ客は、遠慮がちな口調のまま言った。
「ダメだよ、女の子なんだから。体は大切にしなきゃ」
傷を見た客の反応は3つに分かれる。
1つめは、この客みたいに同情心をむき出しにして親切な大人の男になろうとするやつ。
2つめは、何があったのか虐待かDVかはたまた火事か、と根掘り葉掘り聞き出そうとする、デリカシーって言葉知ってますか? と言いたくなるようなクソ野郎。
3つめ、これが一番多いけど、服を脱いだ途端アッて顔をしてすかさずそっぽ向いて、それ以上傷には何も触れないっていう、いわゆる大人の対応。
どんな態度をされようが何を言われようが、たまらなくイラつく。
ひりつくようなその痛みに慣れることはない。あたしにとってこの傷は一生背負って生きることを余儀なくされる過去そのもので、自分自身の本質と強くリンクしている。
そういうものを安易に他人にジャッジされたくない。傷を見て、どんなふうにも思ってほしくないのだ。
決して他人に誇れる生き方なんてしてないし、風俗嬢として社会の底辺でクズをやってることを自覚してはいるが……。
金のため、見知らぬ男たちに体を差し出す毎日。一般的な意味での貞操観念なんて最初から持ち合わせちゃいないけど、その分心の貞操観念は固い。
うざったい同情心は無視して、湯船の中、客に体を押し付けた。
太った喉が嬉しそうなため息を漏らす。ゆらゆらする水面の向こうでは釣鐘型のDカップがくにゃんと歪んで客の胸にくっついている。後ろ姿は悲惨でも、体の前面部は我ながらきれいだ。
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