泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第50話>
<第50話>
「死にたきゃ死ねよ。お前みたいなブスがどうなろうと、別に構わねぇからさ。がっかりしたか? 止めてくれるとか思った?」
「……」
「死んだら教えてくれ。この部屋俺の名義じゃねーし。会社のヤツがてきとーに処分してくれるからさ。すげぇだろ、裏社会。て、死んだら教えられねぇか。ははは」
終わりに「あー、煙草吸いてー」と付け加え、ベランダの窓を開ける。
それがハルくんの最後の言葉になった。
くるり。包丁の向きを変える。
大好きだった背中に飛びつく代わりに、包丁を突き立てた。
刃がぶすりと埋まる。
あっけない。
ハルくんが痛みで叫び声を上げ、振り返る。人間の喉から出たなんて信じられないような、まさに断末魔の獣の声だった。
あぁ、ハルくん、やっとわたしを見てくれたね。
恐怖と驚きと痛みで血走った目を見返しながら、今度は胸に突き刺した。
何のためらいもなかった。
またぎゃああ、と悲鳴が上がる。
ただならぬ叫び声を聞きつけた近所の人が警察を呼び、背後から取り押さえられるまで、わたしはハルくんのいたるところを刺し続けた。
あれほど愛したきれいな顔を、自らの手で壊した。
たくさんたくさん、キスして抱きしめてくれた体が、たちまち真っ赤な肉の塊に変わっていく。返り血と涙で視界が赤く歪んでいった。
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