泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第41話>

2015-06-21 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,178 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sawa 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第41回>

 

お父さんが病室のベッドで息を引き取った直後、お母さんにずっと胸に仕舞っていたその話をした。お母さんは娘のかつての恋人の事故死は知っていたけれど、その真相までは当然、その時まで知らなかった。

 

「好きにしなさい、もう」

 

突き放した言い方じゃなくて投げやりじゃなくて、優しく苦笑いして、お母さんは言った。

 

本当はそんなこと絶対に思うわけないのに……。

 

ねぇ、あなた。

 

目を瞑ったまま、頭の上でキンモクセイの木立を震わせる風の音に耳を澄ませ、彼に語り掛ける。

わたしね、今でも風俗は別に悪い仕事じゃないって思ってる。あなたはあんなにわたしをなじり、仕事を辞めさせようとしたけれど、これからもその信念は変わらないよ。迷うことがあっても嫌になることがあっても、確かに信じるものがあるから。わたしはこれからも、風俗で生き続けるよ。

 

でもね、いい悪いは別として。

 

大切な人を、かけがえのない人を、傷つけてしまう仕事ではあるよね。

 

いくらまっすぐに輝く信念でも、誰かと相いれないことで苦しみが生まれるから。

 

そして今もわたしは、たった1人の親であるお母さんにあなたと同じ思いをさせてしまっている。

 

最低な娘だよね。

 

でもね、わたし、もう誰か1人の人を愛することなんてできない。

 

あなたがわたしの前から消えて、2度と会えない人になって、わたしの中に絶対になくなることがない理由が生まれたよ。風俗で働く理由。

 

 




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