シリーズ<叫び>エピソード2「裏取引」〜第5話〜

2015-07-09 20:00 配信 / 閲覧回数 : 947 / 提供 : ヴィクトリカ・ゾエ・キレーヌ / タグ : 裏取引 連載小説 <叫び>


 

セルフ潮吹き

 

<第5話>

 

「おっ電話だ」

 

山部さんの携帯が鳴り、一瞬、車内にピリリと緊張が走る。沙恵さんも芽衣子さんも、もちろん私も、自分の仕事であればいいのにと、信じていない神様に祈りを込める。

 

「はい、1時半着で。東中野。了解でーす」

 

山部さんはおもむろにアクセルを踏み、神の声を伝達するように誰の仕事か告げる。

 

「こころちゃん。お仕事ですー」

 

内心、ホッとしていた。

 

出勤からそのまま待機、早くも6時間経過。今日もお茶かなって、覚悟してたから……。

 

20時から5時まで週6日、レギュラー出勤しているわたしだけど、顔は人並み以下だし、マッサージは研修で芽衣子さんに教わっただけの超初心者。会話やエッチなあれこれのテクニックもないから、6日のうち3日はお茶を引いている。指名は月に1本か2本、あるかないか。

 

もっと稼げる店もあるらしいけれど、そういうところは女の子が働きやすい環境を作ってくれる分、それなりの成果を要求してくる。

 

指名が取れないわたしには、無理。

 

月4万8000円のアパートの家賃を払っていければオッケー。夢も目標もやる気もない風俗嬢のわたしには、いくら沙恵さんみたいに狂った同僚がいようが、裏取引が横行してようが、今の店が合っているんだろう。

 

「よかったねー、こころちゃん。頑張ってー!」

 

お酒のせいでテンション上がっている沙恵さんが言う。

 

東中野ってけっこう近所。大慌てでメイク直ししてるから、正直相手してる余裕ないんだけど、気を遣って後ろを向く。

 

「はい、頑張りますー」

 

「こころちゃんは、あんなこと絶対しなさそうだよね?」

 

「あんなこと?」

 

「だから、さっきの話をしてるんだよ。裏取引」

 

店年齢を28歳で通している沙恵さんがにやりと笑うと、48歳ぐらいに見えた。

 

「こころちゃんほど真面目で素直な子、風俗で見たことないよ。接客も、ちゃんと真面目にしてるんでしょ?」

 

不気味な笑顔に、あははそうですかねー、と愛想笑いで返し、化粧に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 



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