シリーズ「叫び」エピソード4 アンダー〜第2話〜

2015-08-21 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,483 / 提供 : ヴィクトリカ・ゾエ・キレーヌ / タグ : アンダー 連載小説 <叫び>


 

JESSIE

 

<第2話>

 

「は? そんなかかるの? わかったよ。じゃあいいよ、この子で」

 

高額なチェンジ料金に腹を立てた客は不機嫌に電話を切り、ぼんやり突っ立ってるあたしに向かって威丈高に言った。

 

「ほら、脱がせてくれない? もう始まってるんだよ、サービス時間。しっかりして」

 

「すみません……」

 

あたしはバッグを床に置いてそろそろと成木さんに近づき、ワイシャツのボタンに手をかける。

 

レンタルルームはカップルも利用するラブホテルと違って、ただ単にそういうことをするためだけの部屋だ。特にここなんてひどい。毛布なしのベッドと壁に据え付けられたテレビ、ひとつしかない棚は成木さんの荷物で埋まってて、あたしのバッグを置くスペースさえなかった。しかもエアコンが壊れているのか、モーターの音がやたらと大きい。

 

「美弥ちゃん、本当の名前は?」

 

「美弥が本名です」

 

ボタンを外されながら、成木さんは聞いてくる。

 

そんなこと知って何をするのか何を思うのか知らないけれど、本名を聞き出そうとする客は多い。

 

「え? 本名? ほんとに? 珍しいね、お店の名前使わないなんて」

 

「はい。でも……本名かどうかも、よくわからないんです」

 

成木さんは冗談と受け取ったのか、あたしのことを頭の壊れかけた女と思ったのか、苦笑しただけだった。

 

あたしには本名というものがない。

 

そもそも出生届だって出されてないし、戸籍も持っていないからだ。たぶん、18歳を超えたって、身分証が必要なまともなお店では雇ってもらえないだろう。

 

 

 



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