シリーズ「叫び」エピソード4 アンダー〜第2話〜
<第2話>
「は? そんなかかるの? わかったよ。じゃあいいよ、この子で」
高額なチェンジ料金に腹を立てた客は不機嫌に電話を切り、ぼんやり突っ立ってるあたしに向かって威丈高に言った。
「ほら、脱がせてくれない? もう始まってるんだよ、サービス時間。しっかりして」
「すみません……」
あたしはバッグを床に置いてそろそろと成木さんに近づき、ワイシャツのボタンに手をかける。
レンタルルームはカップルも利用するラブホテルと違って、ただ単にそういうことをするためだけの部屋だ。特にここなんてひどい。毛布なしのベッドと壁に据え付けられたテレビ、ひとつしかない棚は成木さんの荷物で埋まってて、あたしのバッグを置くスペースさえなかった。しかもエアコンが壊れているのか、モーターの音がやたらと大きい。
「美弥ちゃん、本当の名前は?」
「美弥が本名です」
ボタンを外されながら、成木さんは聞いてくる。
そんなこと知って何をするのか何を思うのか知らないけれど、本名を聞き出そうとする客は多い。
「え? 本名? ほんとに? 珍しいね、お店の名前使わないなんて」
「はい。でも……本名かどうかも、よくわからないんです」
成木さんは冗談と受け取ったのか、あたしのことを頭の壊れかけた女と思ったのか、苦笑しただけだった。
あたしには本名というものがない。
そもそも出生届だって出されてないし、戸籍も持っていないからだ。たぶん、18歳を超えたって、身分証が必要なまともなお店では雇ってもらえないだろう。
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。