シリーズ「叫び」エピソード4 アンダー〜第8話〜
<第8回>
それでもお母さんは、体を売る仕事をしていた。あたしを養うためには、そうするしかないからと言って。
「なんかもう、部屋借りるのめんどくさいよねー」
今日みたいに暑い、夏の夜の河川敷だった。
遠くの空で星が瞬いて、地上は光る蛇みたいに電車が滑っていく。ワンピース1枚で芝生の上に腰を下ろし、タバコを吸ってるお母さんの横顔を弱弱しい街灯が照らす。
いつのまにか、すっかり老けていた。まだ28歳のはずなのに、48歳ぐらいに見えた。
「母子家庭のための自立支援ナントカとか、そういうのもあるんだってさ。家を安く貸してくれて、職業訓練もさせてってやつ。でもそういう善意の塊みたいなの、あたし苦手だし」
「行ってみようよ」
え、とお母さんが顔を上げる。白い煙が老婆のような疲れた顔の横を昇っていく。
「そういうとこがあるなら、行ってみようよ。あたしもう嫌だよ、こんな生活。家がないのも嫌だし、学校にだって行きたい。友だちも欲しい。普通の……ただ、普通の生活がしたい」
正直な気持ちを吐き出せるほど、あたしは成長していた。この時、13歳だった。
「美弥、よく聞いて!!」
お母さんはタバコを乱暴に地面でもみ消すと血相を変えて、あたしの両肩を掴んだ。
すごい力だった。目が血走っていた。
お母さんのことを怖い……と、この時初めて思った。
「善意ある大人なんて、結局何もしてくれないんだよ!? たしかに美弥が小さい時、そういうとこ行ったこともあった。でもね、みんな何にもわかってくれないの。
そんな仕事は辞めなさい、お子さんのためにも真面目に働いて、普通の生活をして、親御さんにも連絡しなさいって、禅問答みたく繰り返すだけ。
あたしは、このトシになるまでこの仕事以外知らないの。
今さらスーツ着て就職活動? パソコン覚えてOLさん?無理に決まってんじゃん!! だいたい中学すらまともに行ってないんだから、まともなとこに就職できるわけないし、やっすい給料しかもらえないんだし、それなら体売るほうが全然いいでしょ。
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