泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第30話>

2015-04-18 20:05 配信 / 閲覧回数 : 1,014 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sumire 泡のように消えていく… 連載小説


 

風俗嬢の恋

 

<第30話>

 

「すみれちゃんは付き合ってる人いないの?」

 

「いないんですよね。もういい年なのに」

 

「うっそー。いいんだよ、色恋営業とかしなくて」

 

「いえ、ほんとに彼氏いないんです。もう10年も」

 

「10年……!」

 

細い目がいっぱいに見開かれ、何度かまはだきを繰り返した。

 

「それは、何? 10年前に、何かあったの? 男性不信になるようなこと」

 

「そういうわけじゃないけれど。ただ、好きな人ができなくて。理想高いのかも?」

 

「そっかぁ。もったいないなぁ、こんなにいい子なのに」

 

わたしなんて駄目ですよーと笑って返しながら思う。

 

田中さん、わたしは人を好きになっていい人間じゃないんだよ。愛し愛されて幸せになる権利なんてわたしにはないんだろうし、あれから一度も、新しい恋は訪れていない。

 

甘酸っぱくドキドキしたりときめいたり、平和な日常だからこそ得られる感覚はあの瞬間、失われてしまったのかもしれない。

 

「ねぇねぇ、その子からのメール、見てくれる? 女の子的に見て僕に気があるかどうか、判断してほしくってさぁ」

 

いそいそと携帯を取り出す田中さんは、わたしではなくすみれに向かって語り掛ける。

 

違う名前を名乗り自分自身を偽り続けるのは、少し寂しい。風俗にいる限り、わたしは本当のわたしじゃない。

 

これじゃあ、家や学校でいい子を演じていたあの頃と何も変わらない。

 

だからって西原園香として、表の社会に出て行くのも怖かった。

 

誰かにあの事件のことを知られて後ろ指を刺されるなんて……。

 

自業自得だとわかっていても、想像するだけで目まいがする。

 

 

 

 




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