Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第12話>

2014-01-30 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,125 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Kiyomi 連載小説 風俗嬢の恋


 

JESSIE

 

<第12話>

 

下を向いたあたしの手に、おっさんが汗で湿った手のひらを重ねてくる。

 

「大丈夫だよ、僕なら仕事落ち着いたし。これからまた、ちょくちょく来てあげれるからね」

「……」

「心配しなくていいからね。おばさんになっちゃったって、僕はさおりちゃんのファンだから」

「ふざけんなよ」

 

見上げた目の先でおっさんがぎょっとしていた。

 

——何やってんだ、いけない、今は勤務中、相手は常連客。

 

理性が必死で叫ぶのに、堪忍袋のキレた心は、導火線に火のついた爆弾のように、ストップが効かない。

 

「ふざけんなよ。バカにすんなよ。こんなところで働いてる女だからって、バカにすんな」

「ちょ、ごめ、さおりちゃ」

「うるせぇよ、黙れよ。どうせお前もクズだと思ってんだろ、ゴミだと思ってんだろ、あたしのこと。風俗嬢だからって」

 

立ち上がって、平手でどんとおっさんの身体を突き飛ばすと、おっさんは恐れおののくように目を見開いて、それでもでかい身体はほんの少し揺れただけで、ソファーの上にとどまった。

 

もう1分でも1秒でも、この人の顔を見ていたくなかった。

 

何が勤務中だ、何が常連客だ。あたしは好きでここにいるんじゃないのに。

 

「出てけ。今すぐ出てけ」

「さおりちゃ、落ち着いて……」

「うるせぇよさっさと出てけよ、あたしの目の前からいなくなれ」

「さおりちゃん」

「しゃべるな、さっさと出てけっ」

 

吸殻が二本入った灰皿を投げつけると、おっさんは避けた拍子にバランスを崩し、ボックス席に挟まれた狭い廊下に転がった。

 

ガラスの灰皿が割れ、がちゃんと甲高い音が、トランスに満たされた店内の空気を破った。ミラーボールの7色に染められた床に、破片とタバコの灰が派手に散らばった。

 

心臓がバクバクで、頭の中は熱くて、目の前が白く煙ってよく見えない。

 

「何やってるんだ」

 

富樫さんが駆けつけてきた。ボックス席の中にいた女の子や客たちが次々顔を出し、あたしとおっさんを見つめた。

 

恐怖と好奇心で引きつった顔たちの中に、何を考えているのか分からないりさの目があった。

 

 

 




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