フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第8話>

2014-07-11 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,058 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Iori フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<8回目>

 

人間観察をして遊んでいると、ギャルのスマホが鳴った。1コール目で素早く取る。

 

「もしもし」

 

派手な見た目からすると意外なくらいに、ギャルの受け答えはしっかりしていた。

 

ホテルの名前が出てきたり、○○さんですかって名前を確認したり、じっと会話を聞いていれば、やっぱり風俗嬢だなってわかる。

 

ギャルはドーナツの粉が残るお皿とコーヒーの載ったトレーを置きっぱなしにすることなく、礼儀正しく棚に下げた後、ブーツのヒールをカツカツ鳴らして階段を下りて行った。

 

デニムのショートパンツからはみ出した、むっちりした太ももが目に焼き付く。

 

人のことを考えたって何にもならないのはわかってるけれど、先に仕事に向かう子を見ていると、いいなって思ってしまう。

 

特に、今日みたいに暇な日は。

 

このドーナツ屋さんに入ってもう2時間半、まだ仕事がついてない。年末年始の忙しい時期が終わってから、ドリームガールは不調だ。もっとも、どこの店だって一緒だろうけれど。

 

気分転換に携帯を手に取ると、娘の野々花からメールが来ていた。

 

お子様用の携帯を買ってやってから、野々花は24時間体制の保育園に預けている間、1日に何度もメールを送ってくる。

 

私の母は5才児に携帯を持たせることに猛反対していたが、メールの回数が重なるにつれてどんどん文章が上達していくし、今や小学校高学年レベルの漢字も使いこなせるぐらいなので、国語教育上は良かったんだろう。

 

そりゃあ、こんな夜中にまでメールしてくるのは褒められたもんじゃないけど。良い子はとっくに寝る時間だ。

 

『おしっこに起きてから、どうしても眠れなくなりました。今は、ゆうちゃんと一緒に、となりのトトロを見ています。眠れない時は、無理して寝なくてもいいんだそうです。お仕事がんばってください』

 

夜更かしを叱らなきゃと思っていたのに、文面を見るなりお説教の言葉が頭から消えていく。

 

暇で鬱屈していた気分が、野々花のメールのおかげでしゃっきりした。

 

我ながら親バカだと思う。子どもらしい可愛いメールを表示しているディスプレイの隣で、野々花が作ってくれたカラフルなミサンガがゆらゆらしている。少し網目の大きさが不ぞろいだけれど、5歳児にしては上出来だ。

 

 

 




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