フェイク・ラブ 第四章〜Iori〜<第34話>

2014-08-06 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,068 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Iori フェイク・ラブ 連載小説


 

JESSIE

 

<34回目>

 

これが仕事に育児に追われるシングルマザーにとって、貴重なチャンスだっていうのもわかってる。もし奈々子に相談したら、「何を迷うことがあるのよ?」と呆れられるだろう。

 

でも、あたしはもう気持ちだけで突っ走れる18歳ではなく、いくら若くても未熟でも5歳児の母親で、考えなければいけないことが山ほどある。

 

佳輝くんはあたしと真剣に付き合う気でいてくれて、それはいずれあたしと結婚し、野々花の父親になることに繋がる。

 

佳輝くんが父親。

 

正直、想像つかない。野々花を可愛がってはくれるだろうけれど、ただ他人として可愛がるのとしつけを施し、育てるのとは別だ。

 

だいぶ手がかからなくなってきたものの、まだまだ大人の想像を超えた行動をすることもある野々花だし、それに野々花が佳輝くんを受け入れられるかという問題だってある。

 

でも、一番の問題は、結局あたしの仕事だ。

 

前の彼ともそこが原因で別れただけに、その点が何より怖い。

 

風俗で働いていることを佳輝くんに打ち明けるのか、このまま隠すのか? 隠すのなら一生隠し通せるのか?

 

風俗を辞めるっていう選択肢もある。収入が減って生活の質が多少落ちても、ずっとバレるかバレないかって、びくびくしながら佳輝くんと向き合っていくより、そのほうがどれだけいいか。

 

でも、あたしも奈々子と同じで、風俗をすんなり辞めれる自信がない。

 

前の彼とは、風俗を辞めることについて何度も話し合った。最後のほうは会うたびに話し合いのような喧嘩のようなことをしていたけれど、それなりにちゃんと互いの気持ちはぶつけ合っていたつもりだ。

 

それでも、ひとつ言えなかったことがある。

 

風俗を辞めることを迷うのは、風俗に癒されている部分があるからだ。父親を始めとする大人たちから殴られ叱られ10代を過ごしたあたしには、風俗にやってくる年上の男たちの「可愛いね」「ありがとう」「気持ちよかったよ」が、心の皹に染みわたるように響く。

 

それがニセモノだってわかってても、一時の愛情に縋りたくなる。

 

風俗で辛いことはたくさんある。でも、風俗で得た嬉しいこともたくさんある。

 

お店から期待されれば嬉しい。指名が取れれば嬉しい。お客さんに喜んでもらえれば嬉しい。その麻薬のような喜びたちを、ぱっと手放す気にはどうしてもなれない。

 

 

 




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