泡のように消えていく…第三章~Amane~<第43話>

2015-03-16 20:00 配信 / 閲覧回数 : 917 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Amane 泡のように消えていく… 連載小説


 

JESSIE

 

<第42話>

 

「そういうことすると、刺されるよ! なんてったって、相手は人殺しなんだから」

 

「彼氏メッタ刺しだもんねー。よくやるよー」

 

「なんか、彼氏にだいぶ貢いでたんでしょ? お嬢様学校に通ってたくせに、デートクラブで金稼いでたんだって」

 

「何デートクラブってー?」

 

「うっそー知らないの!? 今で言うDCだよ」

 

「ねぇ。そんなに、楽しい?」

 

自分でもびっくりするほど低い冷えた声が出た。携帯片手に騒いでいた新人軍団がさっとこっちを見て、静まり返る。

 

今のあたしはよほど怖い顔をしているんだろう。なんてことだ、あれだけ偽善は嫌いだったくせに、今あたしはすみれのために本気で怒っている。

 

「何黙ってんのよ。答えなさいよ」

 

「……」

 

「そんなに楽しいかって聞いてんだよ。人の過去ほじくり返して、人のこといじめて」

 

「何言ってんですか。悪いのはすみれさんですよ?」

 

鋭い声を出したみひろを睨み返すと、年の頃はあたしと同じくらいだろうか、メイクで派手に作り込んだギャル顔がうっと怯んだ。

 

「ROMYって、あんたでしょ」

 

「え」

 

「みひろだから、ロミー? ひねりなさ過ぎ。もっとマシなハンドルネームつけられなかったわけ?」

 

「……だからなんなんですか!!」

 

みひろが、ROMYが、逆ギレする。

 

激しい感情に耐性がないんだろう、早くも目がうるうるしていた。

 

「いけないのはすみれさんですよ!! 人殺しは、いけないことでしょう!?」

 

「あー、そりゃあいけないことだよ人殺しは。でもそれを裁く権利が、あんたにあるの?」

 

ぐっと言葉に詰まるROMY。あたしはROMYに向かって、待機室に集まるアホ共に向かって声を大きくした。窓を叩く強まりだした雨に負けないように。

 

「所詮、10年も前のことだろーが。今さら過去を持ち出して本人責めて、どーすんだよ。何がしたいんだよ。それで死んだヤツが生き返るのかよ? みんなここで働いてる時点で、何か抱えてんだろーが。それをほじくり合って人前に晒したところで、何にもなんねーんだよ」

 

途中からすみれのためだけじゃなくて自分のためにも言っていた。

 

他人同士が適度な距離を取り合い、学歴も過去の経歴も問われず働ける風俗は、何かを抱えて生きなければならない人間にとってのセーフティーネットだ。

 

たとえ働いたことですべてが解決しなくても、何も解決しないのだとしても、その環境を侵されるわけにはいかない。

 

 




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