泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第45話>

2015-05-03 20:00 配信 / 閲覧回数 : 943 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Sumire 泡のように消えていく… 連載


 

JESSIE

 

<第45話>

 

たまらなくなって、次々とハルくんを追い詰める言葉が飛び出す。

 

「それに、何なのこの匂い」

 

「匂い?」

 

「トボけないで! この香水の匂い、いつもハルくんがつけてるのと違うじゃない」

 

「あぁ。変えたんだ、香水」

 

「いつまでごまかす気!?」

 

怒りと悔しさと悲しさと、まだ見ぬ浮気相手への嫉妬と、いろんな感情がいっぺんに突き上げてくる。

 

どうして、どうして、どうしてどうしてどうして。あんなに好きだって言ってくれたのは嘘だったっていうの?

 

呆然としているハルくんに背を向け、締め切っているカーテンを乱暴に開けた。

 

窓の外に目をこらす。一人暮らしの男の子のベランダは洗濯ものが風に揺れ、自転車の部品らしきものが転がっているだけで、女の子の姿はない。

 

続いてクローゼットに駆け寄ろうとするとハルくんに両手を掴まれ、取り押さえられた。

 

「離して!」

 

「落ち着けよ、園香」

 

「これが落ち着いていられる!? 今この家のどこかに女の子がいるんでしょう」

 

「そんなのいねぇって」

 

「じゃあこの腕を離してよ! 今すぐクローゼットからトイレからお風呂から全部開けて確かめるんだから!!」

 

「落ち着けって」

 

ガタン、という音がもみ合うわたしたちの動きを止める。2人同時に振り返るとクローゼットの扉が開いて、中から女の子よりもとんでもない顔が現れた。

 

「松木、さん……?」

 

「おぅ、久しぶり」

 

松木さんがわたしに向かって手のひらを上げると、部屋じゅうに漂っていたペパーミントの香りがいっそう強く鼻腔に流れ込んでくる。そういえば、キャバクラで会った時も松木さん、この香りをつけてたっけ。

 

「なんで出てくるんだよ!」

 

ハルくんが気色ばむ。

 

わたしは意味がわからない。まだ女の子だったら、納得がいった。

 

でもどうしてここに松木さんがいるのか。そしてハルくんはなんで松木さんの存在を隠そうとするのか。

 

 

 




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