泡のように消えていく…第四章~Sumire~<第45話>
<第45話>
たまらなくなって、次々とハルくんを追い詰める言葉が飛び出す。
「それに、何なのこの匂い」
「匂い?」
「トボけないで! この香水の匂い、いつもハルくんがつけてるのと違うじゃない」
「あぁ。変えたんだ、香水」
「いつまでごまかす気!?」
怒りと悔しさと悲しさと、まだ見ぬ浮気相手への嫉妬と、いろんな感情がいっぺんに突き上げてくる。
どうして、どうして、どうしてどうしてどうして。あんなに好きだって言ってくれたのは嘘だったっていうの?
呆然としているハルくんに背を向け、締め切っているカーテンを乱暴に開けた。
窓の外に目をこらす。一人暮らしの男の子のベランダは洗濯ものが風に揺れ、自転車の部品らしきものが転がっているだけで、女の子の姿はない。
続いてクローゼットに駆け寄ろうとするとハルくんに両手を掴まれ、取り押さえられた。
「離して!」
「落ち着けよ、園香」
「これが落ち着いていられる!? 今この家のどこかに女の子がいるんでしょう」
「そんなのいねぇって」
「じゃあこの腕を離してよ! 今すぐクローゼットからトイレからお風呂から全部開けて確かめるんだから!!」
「落ち着けって」
ガタン、という音がもみ合うわたしたちの動きを止める。2人同時に振り返るとクローゼットの扉が開いて、中から女の子よりもとんでもない顔が現れた。
「松木、さん……?」
「おぅ、久しぶり」
松木さんがわたしに向かって手のひらを上げると、部屋じゅうに漂っていたペパーミントの香りがいっそう強く鼻腔に流れ込んでくる。そういえば、キャバクラで会った時も松木さん、この香りをつけてたっけ。
「なんで出てくるんだよ!」
ハルくんが気色ばむ。
わたしは意味がわからない。まだ女の子だったら、納得がいった。
でもどうしてここに松木さんがいるのか。そしてハルくんはなんで松木さんの存在を隠そうとするのか。
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