泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第36話>
<第36回>
お彼岸に3日間休みをとって、実家に帰った。
県庁所在地で特急を降り鈍行に乗り換えると、少しずつ窓の外に緑が増えていく。のどかな田舎の景色が眩しくて目を細める。まだ何も植わってない畑の土の横をちょろちょろ小川が流れ、その岸にぽつりぽつり見える紫は、たぶんスミレだ。雑木林の上に広がる空の青は、濁った東京の空とは全然違って、目に染みるほど澄んでいる。排気ガスに汚されていない雲がしっかりと白い。
懐かしさよりも、自分がいかに普段緑の少ない場所で生活しているかを思い知らされる。わたしは、故郷から離れ過ぎた。
「お昼ご飯、もう食べたの?」
地元の駅に迎えに来てくれたお母さんが聞く。お正月に会ったばかりなのに、ほんの2カ月の間で老いはまた一段と強く、この人を浸食していた。手の甲の皮膚はティッシュペーパーみたいに薄くもろくなって、血管が飛び出さんばかりに浮いている。
「特急の中で、食べた」
「じゃあ、すぐ行こうか」
お母さんが運転する車に乗る。カーステレオからはソメイヨシノの開花が今年はいつになるかとかいう話題が聞こえていて、お母さんが少しだけボリュームを上げる。窓の外を、昔酒屋だったものを改装した、コンビニの派手な看板が流れていく。
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