泡のように消えていく…第五章〜Sawa〜<第40話>
<第40回>
「あれ、あなた……。どうしたの、久しぶりじゃない」
その場に崩れ落ちてしまったわたしに声をかけてくれたのは、彼のお姉さんだった。急な悲しみのせいで沈みきって、それでも集まった人たちを迎えるために慌ただしい家の隅にわたしを招き入れ、彼の死の詳細を教えてくれた。
彼が1人で死んだのは、よく2人でドライブに行った峠道だった。
スピードの出し過ぎでカーブを曲がり切れず、崖に真っ逆さまだったという。運悪く、ガードレールのない道だった。
「だいぶスピード出してたんだって。たしかに車好きだったけどスピード狂じゃなかったのに。何か嫌なことでもあって、ヤケになったのかもね」
弟を亡くしても表面上は気丈に振る舞ってたお姉さんは、わたしと別れた後の彼の落ち込みぶりについても細かく話した。
どんなに薦められても絶対に合コンに行かなかったし、心配した親戚からお見合いを持ちかけられても突っぱねた。わたしが写ってる写真も、クリスマスにプレゼントした手編みのマフラーも、捨てないでそのまま大事にしていた……。
お姉さんは1週間前、わたしと彼の間に何があったのか、わたしがなんで彼と別れたのかも知らないのに、その口調はちょっと恨みがましかった。関係ないと頭ではわかっているのに、心がどうしてもわたしを責めるほうへ向かってしまうらしい。
蒼白になってるわたしに優しく接してはくれるけれど、あなたがあの子から離れなければこんな不幸は起こりえなかったのだと、穏やかな声音の裏で言っていた。
東京を出た時は彼に会って仲直りして、そのまま両親にも会いに行くつもりでいた。家出娘の一世一代の決意だったけどその決意が果たされることはなく、わたしがここに来たことは他の誰にも伝えないでくださいとお姉さんに言い残して、逃げるようにその場を離れた。
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