シリーズ<叫び> エピソード1「車待機」〜第8話〜

2015-07-03 20:00 配信 / 閲覧回数 : 993 / 提供 : ヴィクトリカ・ゾエ・キレーヌ / タグ : 車待機 連載小説 <叫び>


 

Rizu

 

<第8話>

わかってるよ、本当は全部自分のせいだって。

 

でもさ、それにしたってさ、

 

あたしをこんなにしたのは誰だよ? 誰だよ? 誰なんだよいったい。

 

アルコールにとろけた目をキッチンに向けると、瞳に映り込んだのは流しの洗い籠に入っているキッチンばさみ。ギラリ光る鋭い刃で諸悪の根源を切り取ってやるため、あたしはキッチンばさみ片手に家を出た。コートを着るのを忘れたけれど、アルコールと憤懣が全身ぐるぐるしているから、寒さなんて感じない。

 

外はもうすっかり朝で、缶チューハイより冷たい空気に頬をつき刺され、アパートの階段を降りたところで一瞬、途方に暮れる。こういう時はどこを目指すべきなのか、右と左、どっち? とりあえず右に進むと、前方からハッハッハッハッ息を切らして歩く太り過ぎのブルドックと、青いリードを握ったおばさんが近づいてくる。もう5年以上会ってないけど、たぶん母親と同じ年頃だろう。

 

「おはようございます」

 

にこやかに声をかけられ、戸惑った。最近、客と店長とドライバーと、コンビニの増田くん以外の人間とはまともに口を聞いいないせいで、慌てて返した声はお、おはようございます、とみっともなくどもっていた。犬まであたしににこり、笑いかける。誰にでも愛想よく笑うNo,1のあの子みたいに。ああやって完璧に割り切って仕事できたら楽なんだろうな。

 

振り返ると、おばさんに連れられて散歩する犬の股間には、立派なタマがぶらぶらしていた。ぶらりぶらりぶらぶらりん。見せつけるように左右にゆさゆさ揺れるタマのせいでやる気をなくしたあたしは、シャツの胸ポケットから半分はみ出しているハサミを誰にも見られないよう上から手でおさえ、すごすご家に帰った。朝から酔っ払ってフラフラキッチンばさみ片手に出歩いて、不審人物認定され通報されたらたまらない。

 

 



最初の記事前の記事ヴィクトリカ・ゾエ・キレーヌが書いた次の記事最新の記事

カテゴリー