シリーズ「叫び」エピソード4 アンダー〜第5話〜
<第5話>
15歳の時、公園の公衆トイレであたしを産んだというお母さんは、出生届を出さなかった。そもそも当時中学生のお母さんには、そんな知識もなかったんだろう。
その頃は、もちろんあたしは全然記憶がないけど、まだお父さんと一緒に行動していて、毎日喧嘩ばっかりで生活も大変で、目の前のことに精いっぱいで、戸籍とか出生届のことに気を回す余裕もなかったみたい。
物心ついた時、既にお父さんはいなくて、あたしはお母さんと2人きりだった。家は、何度も変わった。男の人が一緒にいたりいなかったりしたけど、たいがい、今の寮と変わらない広さとボロさの、4畳半だった。
学校には一度も行ったことないから、読み書きはテレビと図書室で覚えた。9歳の頃に住んでいた、ドブ川のすぐ側に建ってて夏はドブの異臭で鼻が曲がりそうになるアパートのすぐ傍には、小さな公民館があった。そこの図書室が、9歳のあたしの居場所。
カウンターの中にはいつも70歳は超えていそうなおばあちゃんが座っていて、あたしのことを不登校の子どもだとでも思ってたんだろう。学校がある日もない日も、いつも図書室に来るあたしをニコニコ見つめていて、余計なことは何ひとつ言わない、いい人だった。
家賃が払えなくなって、そのアパートを追い出されるまで、大人向けの本も子ども向けの本も、あらゆる本を読んだ。
自分に足りないものを、本能的に補おうと、必死だったのかもしれない。
図書室が、あたしの唯一の学校だった。
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