性と生を見つめ直す映画『玄牝』<前編>
自然に子どもを産むということ、きっとそれはすごく気持ちのいいこと
性を見つめることは、生を見つめることだと思っている。
河瀬直美監督の『玄牝』という映画をご覧になったことがあるだろうか。
舞台は愛知県岡崎市にある吉村医院という自然分娩を推奨する産婦人科。
自然に子供を産みたい、と望む妊婦達が全国から集ってきて、自分らしいお産に向け心と身体を鍛え準備をしていく。そんな医院での日常を切り取ったドキュメンタリ-映画だ。
私はこの映画を観た時、音がとても印象に残った。
風の音、遠くから聞こえてくる工事の音、蝉の鳴き声、子供の声、衣のすれる音、息遣い、料理をする煮炊きの音……。そして、妊婦達はいいお産のための身体つくりの一環で薪割りをするのだが、もちろんその薪を割る音も庭に響いている。
どれもが日常の音、自然の音。日本人なら誰もが馴染のある音たち……。
そんな音を子供は母親の腹の中で聞いていて、その音のする場所に生まれ出てくるのだ。 非日常ではなく、日常の中に……。
文化の異常によって変わってしまった『性』のカタチ
お産は本来、自然なものであり日常の延長線上にあるもののはずであることを思い出させてくれた。
吉村医院だけではなく、助産院というところは、どこもそうなのかもしれない。
映画の中で院長の吉村正先生が、「昔はお産にはほとんど異常はなかった。どこに異常があるかというと、生物学的な異常じゃなく文化の異常なんです」と語る場面がある。
文化の異常……。
ちょっと待って……!! それって、お産だけだろうか……?
まぐわい(セックス)も文化の異常になっていないか……?
玄牝には当然のことながら出産のシ-ンもある。造られたのではなく、本当の妊婦の出産の場面。
普通の病院での出産のように、手術台のような所に寝かされ眩しい光の下で行われる出産とはちがい、とても穏やかだ。
ドラマのように悶え苦しんでいる妊婦もいない。
うす暗い部屋の中で、パ-トナ-や家族に見守られ、「ああ~、ああ~、きもちいい~、あったかい~、ありがとう~」と、なんとも艶やかな声を上げている。
産まれ出た我が子を胸に抱き涙を流し、「待ってたよ~」と囁く。
その声は、愛あるまぐわいをしている時の艶声のように聞こえ、見ているこちらがどきどきしてくるほどだ。
なんとも気持ちがよさそうであり、その姿は輝き、美しく、幸福感に満ち溢れているのが伝わり、羨ましくさえ感じられてくる。
本来のまぐわいも、そういうものだという。
終わった後で、それはそれは素晴らしい幸福感に包まれる。
そんな風に、満たされ、美しく輝き、幸福感に満ち溢れる、まぐわい、を経験している女性がどれほどいるのだろうか。
と、問題提起したところで、<後半>に続く。
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