『メゾン・ド・エレクトノエル』~孤独と向き合う29歳の日々~(2)
『102号室』
顔がベタベタした。床の上で寝てた。暑いなぁ、何時間寝てたんだろ。
オレンジ色が部屋に充満してるってことはもう夕方なのかな。
目線だけ動かして時計を見た。もう5時過ぎか……。今日は久しぶりに休み。
明日のこと考えないで怠ける時間が贅沢に、いや至福の時間と思える。
乾いた様々な残飯と缶チューハイの空き缶が散乱してる。
「またやってたのか……」
吐くために食べる、潰れるために飲む。何年も続けているこの無為な時間。
誰にも見せられないあさましい姿で、食い散らかしながら、大量に飲み食いして吐く。
それを何度も何度も繰り返して、そのうち咀嚼に疲れる。
吐瀉して部屋に戻るたびに、自らを蔑み責める。たまに褒める。そして多量のアルコールで抗精神薬を飲み込み、泥のように崩れる。
自分が蛆虫やごみ屑なんだと思うと、妙な満足感に嗤えて声出して笑ってしまう。その時に落ちてしまうことが多いのか、笑みが残ったまま、目が覚めることがよくある。
『声を出して笑って心も体も健康に!』なんて、標語かよ? と思うし、無理にまで笑ってなんなのだ? と虫唾が走るんだよね。でもよく雑誌の表紙に書いてそうなアレを、こんな底辺で実行してる。
極度の空腹感に、取りあえず立ち上がることにした。吐瀉物が顔についてないか確認している鏡の中の自分に嫌気がさす。
疲れてる。寂しい。
でもそれが顔に出ることは普段は出来ないから、今日のところは許そう。
別に周りの目が気になるわけではないけど、あたしを見てよそ様のご気分を損ねてしまってはならいからと、帽子と眼鏡をつ、け軽い上着を羽織った。そして、財布の中身を確認する。
あっ、せめて下着くらい変えてから出かけようかな。
部屋着を脱いでブラをとると、小さいけど丸いお気に入りの乳房が鏡に映った
ショーツも脱ぐと『ペリペリ』と何かが乾いてはがれる音がした。
昨晩の、右手中指とのSEXのせいだったと、ちょっと照れても一人で始末するしかない。男としても後々面倒なだけだ。
見た目のましなお金のある男。それは、捕まえられなくもない。だけど、自己満足な男のSEXは、絶対にイカしてくれる約束もないし、そのあとも関係が続くならなおのこと面倒くさい。
女性専用の風俗が普及してくれたら問題ないのに……。
ただただ、なめてくれる人。ただただ丁寧にいうことを聞いて、イカせてくれて、終わったらお礼を言われて帰ってくれる人。
お金の関係なら後腐れもないし、ほかにもばれないし、ちゃんとした店なら病気の心配もないしな。好みもチョイスできるなら、願ったり叶ったりだ。
とはいえ、出会い系は怖い。過去に後輩の女の子が出会い系で売りをして、相手がアンダーグラウンドな人だったことがある。
その男は、風俗業として登録した会社のホストで、つまり後輩が売りをするのではなく、出張ホストをとったことになるからと、次々と要求された追加要望に答えた結果、つりあがった20万円程の金額を逆に請求されたという。
こそこそとネットで調べても、後腐れがなさそうな女性向け風俗が、住んでいる地方ではなかなか見つけられない。東京ならあるのかもしれないけど。
溜息を漏らしながら、素っ裸のまま、ショーツのその白く固まった部分を洗面台で洗う。
ちなみに昨日のおかずはこんな感じ。ある朝起きたら、自分に男性器が生えてきてたから、取り敢えずヘルスに行って咥えてもらい、意気投合から挿入に至る……という妄想。
産婦人科に健診に行って先生に性的な悪戯されるとか、マッサージ店で必要以上の部位へのサービスを受ける妄想も、たまにする。自分が変態だと思うけど、結構みんなそうなんじゃないの?
特に、産婦人科での診察台での自分の態勢を辱めだと言い放つ女は、被害妄想からくる卑猥な行為であると感じてるわけで、所謂『むっつり』でしかない。
ただ単なる医療行為の最良の態勢なのだし、その様子を男性に『屈辱で恥ずかしい』などと赤裸々に話してることで、自分が高貴な女性なんですと言ってるようにしか聞こえない。
まぁ、他人のこと考えてる場合ではない。とにかく極限的にお腹が空いてるし、なにより吐きたいのだ。なんだかんだと考えながらも身支度ができた。
さぁ新しい下着をつけたし。出かけようっと。
今日は何を吐こうかな。
<第二話>終わり つづく
人気記事
JESSIEの最新NEWSはFacebookページが便利です。JESSIEのFacebookページでは、最新記事やイベントのお知らせなど、JESSIEをもっと楽しめる情報を毎日配信しています。