トーキョー’90クロニクル vol.7 痴漢は敵だけど「痴漢に気をつけるのよ」という大人たちも味方ではない。

2015-01-19 16:00 配信 / 閲覧回数 : 1,349 / 提供 : 大泉りか / タグ : 90年代 女子高生 痴漢


 

夜這いの宿

 

 

 

高校時代は自転車通勤だった。だから、実のところ、痴漢にあったことはあまりない。学校が終わった放課後、池袋や新宿に行くときは大概、友達と一緒だったし、大騒ぎながらメイクを直している女子高生の集団に眉をひそめる大人はたくさんいたけれど、近づいてきてその身体に触ろうとする男なんていなかった。

 

けれど、少しはある。小さい頃はマンションに住んでいたのだけれど、非常階段に露出系のオジサンがたまに現れて問題になっていたし、道案内を頼まれて、裏道に連れ込まれて身体を触られたこともある。すれ違いざまにペニスを見せてくる男性にも度々遭遇したし、何かの用事でひとりで電車に乗っている時に胸やお尻やアソコを触られたことも何度もあった。

 

小さい頃は怖いだけの存在だった痴漢だけれど、いつからかあまり怖くはなくなった。というのも、だいたいの痴漢は、ポーカーフェイスを気取ってはいても、どこかオドオドと許しを乞うような目つきをしていたからだ。

 

電車の中で身体を触られたり、すれ違いざまにタッチされたり、スカートをめくりあげられた時に、まず最初に思うのは「ウザい」だった。その次は「キモい」。そしてひたすら腹が立つ。腹が立つといっても当然のこと「隙があるわたしが悪いんだ」なんて自分に対する腹が立ちは、一ミリもしない。湧いてくるのは「てめー、なに勝手に触ってんだよ」という怒りで、ようするにそれは、自分の身体が万引きされているかのような感覚だ。

 

電車からホームに降りる瞬間に、背後から思い切り蹴飛ばして、いったい何が起きたのかを把握できずに、驚いてぱちくりと目を丸くしている痴漢男の顔を見ると、爽快な気分になった。けれど、一方では、それが「痴漢退治」という大義名分をふりかざした、『金を払ったくらいでわたしたちと対等に付き合えていると思っている、オジサンたちへの復讐』だということにも薄々気がついてもいた。

 

なんであれ、いくらそうやって自衛したところで、周りの大人たちが褒めてくれることはない。警察官には「あんまり夜遅く、出歩かないほうがいいね」と注意され、母親に報告すれば「そんなはしたない格好で出歩くからよ」と諌められる。だから、警察官も母親も本質的には味方ではないと思った。自由を規制されるのは我慢ができない。そのためなら、痴漢と戦うことを選ぶ。

 

「痴漢冤罪をでっちあげて金を巻き上げる」「バックに質の悪い男がついている」といったふうに、その当時の“女子高生”にはダーティなイメージもあった。髪を茶色く染め、ボタンをふたつ開けた制服のブラウスの胸元に、金の細いチェーンを光らせて、足元はだるんとしたルーズソックス。わたしは“女子高生”という武装して、電車に乗って池袋へと通った。hitomiの歌「キャンディ・ガール」をくちずさみながら。

 

 




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