シリーズ「叫び」エピソード4 アンダー〜第13話〜
<第13話>
まだしつこくモーターが回っているおもちゃをお尻から引き抜くと、一緒にずるずるとひどい臭いを放つものが溢れ出して、やれやれとため息が出た。
あちこち痛む体に圧をぎりぎりまで絞ったシャワーをかけ、丁寧に水滴を拭う。
下着を身に着け、ワンピースをすっぽりと頭からかぶったら、鏡の前で全身を確認。
腕が痣だらけになってたのでバッグからカーディガンを取り出して羽織り、何度もビンタされた頬はまだ腫れているので、マスクで隠した。脚についた痣はどうしようもないけど、それほど目立つものでもないだろう。
ドアを閉じる前、一度だけ潰れたトマトみたいな顔になっている成木さんを振り返った。
初めて人を殺した時には一生分の涙を使い果たしてしまったかと思うほど泣いたのに、今は自分で自分が恐ろしくなるぐらい、何も感じない。
このレンタルルームは、お客さんと女の子、同時退出がルール。でも、
「3番、1人出ます。お客さん、まだ中にいるんで。一服したら、出ると思います」
って言っておけば、アクリル板の向こうの男の人は、はい、と生返事をしただけだった。
年齢はたぶん、死んだお母さんと同じくらい。仕事へのやる気のなさが表れている顔だ。
どうせ、ただのバイトだもんね。
外へ出ると、刺すような日差しがあたしを歓迎する。しかもマスクにカーディガンまで羽織ってるから、一気に汗がこみ上げてきた。
偶然にも、また夏だ。一度目は夏。二度目も夏。三度目も……夏かもしれない。
歩きながらバッグからお財布を取り出し、中身を数える。
大丈夫、逃走資金は十分ある。どこか遠くの、ここと似たような街に行って、また似たような店で働けばいい。
まもなく警察は来るだろうし、お店のスタッフたちが事情聴取を受けるだろうけど、絶対あたしにたどり着くことはない。
入店の際に身分証は取ってないし、そもそもそんなもの持ち合わせちゃいないし、だいたい出生届すら出されず戸籍を持ってないあたしは、この世に存在してないのと同じこと。
人を殺したって、追われるわけがない。
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