Yuuna〜風俗嬢の恋 vol.3〜<第4話>
<第4話>
「うん、やっぱ君にしてよかった」
「え」
「ここのナンバーワンって子、さっき見せられたけどさ。なんかこういうのに慣れちゃってる感じで、それじゃあつまんないよね」
「ナンバーワンって、りささんですか?」
「そうそうそんな名前。あの子はねー男慣れしてるよね。僕ぐらいになると、見ただけでわかるんだって」
そう言われてみればたしかに、顔立ちは幼くてどっちかっていうとロリ系だけど、そんな感じはするかもしれない。
たくさんの男に触れ、彼らから抜き取ったエキスみたいなものが、りささんからはふんわり漂っている。そういう独特のフェロモンに惹きつけられて、更に男は集まってくるんだろう。
「僕は新人発掘大好きでね。君みたいなおどおどして、恥ずかしそうなのがいいの。ここ入ってどれくらい?」
「まだ二ヶ月、です」
あたしのセールスポイントはおどおどした素人っぽい雰囲気らしくて、初めてのお客さんにこの質問をされたら必ずこう答えなさいと富樫さんから言われている。ほんとはもう一年近くここに勤めてるのに、あたしは永久に新人だ。目の前のおじさんは細い目をますます細くした。
「そっかぁ、二ヶ月かぁ。そんな感じだよねぇ。可愛いなぁー」
何それ、見ればわかるとかいって全然わかってないじゃない。
とは言えず、いつも通りヘラヘラ笑っていると、おじさんがぶちゅうと唇を合わせてきた。臭い息がもろに顔にかかって、吐き気がこみ上げてくる。
唇がちょっと退いた瞬間、早口で言った。
「あ、あの、あたしキスはちょっと」
嫌なことは嫌と言ってもいい、それが店ルール。だけど、そのルールが通用しないお客さんもいる。
「えーいいじゃん。ちょっとだけ、ちょっとだけだからぁ」
甘いような苦いような、変な味の舌が唇を割って中に侵入してくる。口の天井をつつかれるのも舌を吸われるのも歯茎を舐め回されるのも、口の中でナメクジが這い回ってるみたいだとしか思えなかった。
鳥肌を立て、体中を好き放題にまさぐられる責め苦に耐えながら、さっき見た炎天下の歓楽街を行くカップルの姿を思い出す。
あたしは何をしてるんだろう?
本来なら人生で一番楽しいはずの、ハタチの夏に。
あんなふうに無邪気に笑いながら、大好きな人と手を取り合う二人だっているのに。立場も年頃も同じ彼らとあたし。だけど違いすぎる。
さんざんな時間が終わって、おじさんは入り口でもう一度ねちっこいキスをひとつしてから、帰っていった。
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