Yuuna〜風俗嬢の恋 vol.3〜<第8話>
<第8話>
突然、店の外で源氏名を呼ばれて頬がひきつる。その反応まで楽しむように、目の前の彼はニッと目で笑う。
たぶん、歳はあたしと同じぐらい。まだ幼さを残した顔立ちは栗色の髪とよく相まって、丸い目も楽しそうな口元も底抜けの能天気さを表していた。着ているものはごく普通のTシャツとジーパンだけど、膝のところのさりげない破れ目やウォレットチェーンについたダイスのキーホルダーなんかに、小さなこだわりを感じる。
「やよいちゃんって、明らかに他の女の子と違うよね。俺、このバイト始めてもう三ヶ月経つし、あの店にどういう子がいるのか大体わかってきたけど。やよいちゃんだけ、パッと見てわかるほど毛色違うからさぁ」
やっぱり、客観的な目からもそう見えるらしい。あたしは風俗嬢に向いてない風俗嬢で、第三者からもすぐにそれが見抜かれてしまうんだろう。
いつのまにか並んで歩くあたしたちの隣を、制服姿で自転車を漕ぐ女の子が通り過ぎていく。
「単刀直入に聞くけどさ、やよいちゃん、なんでこんなバイトしてるの?」
「夢があるんです」
「どんな夢?」
「秘密です」
「そっかぁ、秘密かぁ」
と、例のごとくケラケラ笑ってから、質問を変える。心のドアを閉ざされた痛みなんてちっとも感じてなさそうな顔で。
「やよいちゃん、源氏名じゃないほんとの名前は?」
「秘密です」
「そっかぁ、秘密、多いんだね。俺は正義。正義って書いてマサヨシね。A学の二年」
A学はこの辺りで一番近い大学で、グレードはあたしの通うH大学と同じくらい。二年生ってことはもしこの人が浪人も留年もしていなければ、同い年ってことになる。
正義くんはごく自然に、いやらしいムードなんて欠片も見せずに、言った。
「ねぇ、よかったらこれからデートしない? 俺バイクだからさ、後ろ、乗ってよ」
「あたし、体調が……」
「嘘でしょ、そんなの。仮病だってバレバレだよ」
笑うと、少し出っ歯気味の白い歯が光る。そんな正義くんを見ていたら、断る気力なんてどこかに吹き飛んでしまった。
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