Yuuna〜風俗嬢の恋 vol.3〜<第10話>
<第10話>
この人は風俗嬢を馬鹿にしているんでも面白がっているんでもない。ただ、あたしに興味を持ってくれただけなのだ。
「あの。さっき答えられなかった質問、逆にしてもいいですか?」
「何?」
「なんでこんなバイトしてるのかって」
正義くんがニッと笑った。笑うと目尻に浅く皺が刻まれる。普段よく笑うから、年齢に似合わないそんな皺が出来るんだろう。
「俺、バイク好きなんだけどさぁ。バイク維持するのって、結構かかるんだよね。ティッシュ配りって単純労働の割に時給いいし。居酒屋と掛け持ちでやってる」
「居酒屋でもバイトしてるんですか?」
「してる」
「そんなにバイトばっかりして、忙しくないですか?」
「忙しいよ。でも忙しいの、好きだもん」
自分の境遇に満足して、不満も不安も一切口にしない強い笑顔が、目の前にあった。
恋人同士にしてはよそよそしい距離をあけて歩きながら、正義くんが高校の時の彼女の話をしてくれた。きっと誰にでもある、そこらじゅうに転がっていそうな、苦い失恋話。規則正しく砂浜を洗ってまた返す波は、ちょうどいいBGMだった。
「でさ、はっきり言われたんだよね。俺はキープだって」
「それで、どうしたんですか」
「ほんとに好きだったからさ。どうしても無理? 一番目とトレード出来ない? て、聞いちゃった」
「トレードって。何、それ」
こみ上げる笑いをこらえきれず、口元が緩む。正義くんが途端にぱっと目を輝かす。
「ほら、笑った」
「え」
「やよいちゃんが初めて笑った」
「……」
「そのほうがいいよ。やよいちゃんの笑った顔、可愛いもん」
可愛いなんて言われたの、何年ぶりだろう? 正義くんの笑顔はやっぱり眩しすぎて直視できないから、半分海にずり落ちた太陽を見る。
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