Yuuna〜風俗嬢の恋 vol.3〜<第19話>
<第19話>
パスケースを取り出し、改札をくぐる。夜七時台の駅は勤め帰りの人たちや遊び疲れた若者たちでいっぱいで、すごく賑やかだ。ホームに続く階段のすぐそばに、大学生ぐらいの若者がたまってはしゃいでいた。時々大げさな笑い声が上がって、何がそんなにおかしいのかと神経が尖る。
自分だって今どきの若い子なのに、今どきの若い子がうざい。特にこんな時は。
若者のグループは十人ほどの女の子たちの集団だった。いや、男の子もいる。
女の子のふわふわしたスカートの向こうに、ブラックジーンズと黒いTシャツが見えた。どこかで見たことのあるような服。
あたしが足を進めると角度が変わって、その人の顔も見えた。
思わず立ち止まってしまって、後ろから来ていた男の人が思いきり背中にぶつかった。グレーのスーツを着たサラリーマンっぽい男の人はすごく嫌そうな顔をしたけれど怒鳴ったりはせず、静止してしまったあたしの顔を眺め回しながら、そそくさと通り過ぎていく。
「ヤバい、正義ちょーおかしいんだけどー。マジありえない」
甲高い女の子の声が聞こえて、笑い声が重なる。
女の子たちの集団、その真ん中にいるブラックジーンズと黒いTシャツは、どう見ても正義くんだった。正義くん以外の誰にも見えなかった。
他人の空似、だなんて自分を誤魔化すことも出来ない。心臓の鼓動がバクバクとうるさく、鼓膜の内側からあたしを責める。
どうすればいい?
近づいていってこれはどういうこと、今日はバイトなんじゃなかったの? と正義くんを問いただすか、それともこのまま気付かない振りをして、黙って通り過ぎるのがいいか。
決める前に、正義くんが何かのいたずらのように、あたしを見た。
あたしも正義くんを見た。
四メートルほどの距離を開けて、二人の視線がぴったり重なった。
正義くんの目が驚きに見開かれ、そして頬がこわばり、すまなそうな表情が顔を覆う。
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