Yuuna〜風俗嬢の恋 vol.3〜<第20話>
<第20話>
あたしは踵を返して逃げ出した。
さっきくぐったばかりの改札を逆走する。
ちゃんとタッチ出来てなかったらしく、エラーの音が空気を切った。全速力だったせいであたしの行く手は塞がれず、背中でゲートが閉まった。
「待ってよ」
駅の階段を駆け下り、どこへ向かうのかわからないまま駅前広場を突っ切ろうとしたところで、正義くんに腕を掴まれた。
すごい力だった。駅に入っていく人、出てくる人が、何事かという目であたしたちを見ている。
「ひどい、あたしのこと遊びだったんだ」
どこかのドラマで聞いたような台詞が口を突いた。
ついでに涙が溢れた。正義くんの腕を振り払おうと、精一杯もがいていた。
好き、大好き、離れたくない、離れたい、裏切られたくない、傷つけられたくない、でも好き、離れたくない。
「違うし。話聞いてよ」
「何が違うのよ」
「嘘ついたのはごめん、謝る」
正義くんには珍しい、あの日海で最初にキスした直後のような、真剣な顔だった。
直感的に、やっぱりこの人はあたしを弄んではいないんだと思った。
自分に都合のいい、客観じゃなく主観が導き出した答えだったけど。
「あの子たちは……?」
「サークルだよ」
「女の子ばっかりだったじゃない」
「ブラバンドだから、女子が多いんだ」
そういえば少し前に、中学と高校の頃吹奏楽部でサックスを吹いてたと言ってたことを思い出す。
吹奏楽部って女の子ばっかりでしょう、と言ったらそうそう、だから肩身が狭くてさぁなんて笑って、ほんの少し不安を覚えた。
あたしに気安く声をかけたのも女の子の扱い方がやたらと上手いのも、思春期を女の子ばっかりの世界で過ごしたせいなのかと。この人は今まで、あたしが想像してたよりずっと多くの女の子と関わってきたんだと。
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