Kiyomi〜風俗嬢の恋 vol.4〜<第10話>
<第10話>
富樫さんのテノールの声が斜め上から降ってくる。
「清美は、普通の仕事する気はないの? 俺はもうこのトシだから、一生ゴミとして生きてくしかないって覚悟してるけど」
前に話してくれた。
富樫さんは母親に何人も愛人がいて、父親は飲んだくくれで暴力を振るう、そんな冷たい家庭で育った元暴走族のリーダーだった。
時々、表の社会を敵視しているような目つきをするのは、その名残かもしれない。
「清美は、まだ若い。これからいくらでもやり直せる」
「そんな気力、ないよ」
「そこが甘えてるって言うんだよ」
富樫さんはバッサリ切り捨てる。
たしかにあたしは甘えていた。富樫さんに、残り少なくなってきた自分の若さに、風俗という仕事に。
でも甘えない生き方なんてどういうものか、どうしたらできるのか、まるでわからない。今までこんなふうにしか生きてこなかったんだから。
富樫さんは近くのコインパーキングに停めていた車にあたしを乗せて、マンションまで送ってくれた。お茶ぐらい飲んでいけばと言ったら、やんわり断られた。
本当は誰よりも富樫さんに抱かれて、気持ちよさであたしをいっぱいに満たしたかった。たぶん、満たされることなんてないだろうけど。
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