Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第1話>

2014-02-08 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,743 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Kaya 連載小説 風俗嬢の恋


 

JESSIE

 

<第1回目>

 

清美が死んで、次はあたしだと思った。だってあたしも、清美と同じ22歳……。もうすぐ23歳になる……。だからだ。

 

8月のカレンダーを剥がすと、当然ながら9月のカレンダーが出てきくる。それが誕生月であることを確認して、ため息が出た。

 

23歳。

 

きっと世の中の大人たちからしたら、じゅうぶん若い。でも裏の世界で、特にあの店で生きるにしては、もうさほど若くない。

 

「ねぇその傷、どうしたの?」

 

その初回のお客さんは、上半身裸になったあたしの腕の傷を見つけて、引きつった声を出した。

 

左の胸をもみしだきながら右の胸に顔を埋めてて、ふと目を上げたところに、傷があったのだ。40歳代前半ってところの、頭がうっすら禿げ上がった、中肉中背のおじさんだった。

 

「猫にひっかかれちゃって」

 

何度も繰り返したいいわけ。お客さんに傷を見つけられたら、いつもそう言っていた。

 

猫の爪は結構鋭くて、跡が残りやすい。別に不自然じゃないはずだ。

 

たいていの人は、そう言えばそれ以上は突っ込まない。なのに、おじさんは敏感な心の持ち主だったのか、不審そうに眉をひそめる。

 

「びっくりしたよ。まさか自分で切ったのかって」

「そんなわけないじゃないですか」

「今、多いっていうからさ。リストカットって言うんだっけ、自分で手首切るの」

 

言いながら傷に指を這わせてきて、一瞬腕がびくっと震える。

 

そこだけ皮膚がちょっと盛り上がって、飛行機雲みたいな白いまっすぐなラインになっていた。実は他に何本も傷はあるんだけど、暗闇でもよく目立つ、一番大きな傷だった。傷を撫でながらおじさんが言う。

 

「バカだなって思うよ、死のうとするなんて」

「……」

「俺、ちょっと前オフクロが死んだんだ、ガンで」

「そうなんですか」

「まだ60歳代だったんだ。母子家庭で俺のためにずっときりきり働いてきて、ろくに親孝行もしてやれないまま、何も返せないまま、逝ったよ。あちこち転移して、えらい苦しみながらね」

 

おじさんの湿った指の腹が、傷を撫でる。愛しさを込めるように、責めるように。

 

「生きてるだけで幸せと思えないのは、バカだよ。生きたくても生きられない人がたくさんいるんだ。最近の若者はヤワだね、ちょっとうまくいかないからってすぐ手首切ったり死んだり。おじさんには、甘えとしか思えないね」

 

言ってからまた、栗色の乳首を口に含む。サービスで小さく声を上げながら、思っていた。きっとこのおじさんは傷の正体に気付いているんだと。

 

体勢を変えるまで、白いラインを撫でる指は離れなかった。

 

 

 




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