Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第2話>
<第2回目>
休憩室の中には富樫さんだけがいた。
今は水曜日の午後6時過ぎ、出勤している女の子はあたしを入れて4人。あとの3人は全員がボックス席の中だ。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
挨拶をしながら、どうしても富樫さんの顔をじろじろ眺め回してしまう。そこに清美の霊が貼り付いてないか、探すみたいに。
本当は富樫さんと清美の思い出を語り合いたかったけれど、葬儀にすら出席せず、清美が死んだ後も店で淡々と仕事をこなす富樫さんの前では、清美の「き」の字すら出すことが出来ない。
この人が本気で清美を思っていなかったのは知ってたけど、どうしてここまで冷たい態度を取れるのか、理解できなかった。
「あのさ、まゆみ。わかってると思うけど、うちって一応、22歳までってことになってるんだよね」
手鏡を開いて化粧を直していると、富樫さんが話しかけてくる。顔は固いのに、口調はこの人にしては柔らかい。
ついに来たか、と覚悟した。清美がされたクビ宣告。同い歳のあたしが、されないわけがない。
「まゆみって今月、誕生日だよね?」
「はい。23歳になります」
「そっか。ねぇ、うちの系列でソープやってるんだけど、そこ、移らない? 他のソープよりも歳いってる子が多くてね、落ち着いた、大人の女性がコンセプトになってるんだ。まゆみなら、そこは合ってるしね。落ち着いてて、大人っぽい」
「考えてみます」
うん、よろしくー、と軽く言って、富樫さんは休憩室を出て行った。入り口のベルが鳴ってお客さんが入ってきたから。
まもなく騒がしいトランスミュージックの向こうに、受付で話すお客さんと富樫さんの声が聞こえてくる。
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