Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第3話>
<第3回目>
簡単に決められることじゃない。同じ風俗でもうちみたいなライト風俗と本番ありのソープとじゃ、何もかもが違う。
報酬も、覚悟も、そこで失うものも……。
でも、系列店に移らないということはうちを辞めることで、辞めることイコール無職になることで、無職になったらイコール働かなくちゃいけなくて、それが風俗でないとすれば、つまり、普通の仕事をすることになる。
普通の仕事なんて、一度も、一瞬でも、したことなかった。
「お疲れ様でーす!」
うきうきと弾んだ甲高い声にはっとして、つい驚き顔になってしまった。
つい最近入店したばっかりの、新人のあやだった。まだ18歳で、よくしゃべって、とにかくテンションが高い。短くカットした金髪がよく似合う、いたって今どきの女の子だ。そこまで悪い子じゃないんだろうけれど、実はあたしはこの子がちょっと苦手だった。
清美が死んだ時、
「ねぇねぇさおりさんってなんで死んだんですか? まゆみさんって仲良かったんですよねぇ、なんか知ってません? そうそう、あの人富樫さんと付き合ってたって聞いたんですけど、本当ですか? それが原因ですか? 別れ話でもされて?」
なんて、目をらんらんと光らせながら聞いてきたからだ。
「ねぇねぇ、まゆみさん。キモいオヤジにキスしていいって言われたら、どうしてますか? しちゃいます?」
この子が隣にいたら、もう化粧どころじゃない。
あたしは手鏡を閉じ、にっこりと笑顔と作ってあやの顔を見る。苦手な子でも、ほんのり嫌いだと思っていても、いい顔をしてしまう。すっかり身についてしまった癖だった。
みんなはこんなあたしのことを「優しい、いい人」と言う。
「うーん、それはしょうがないんじゃない? お仕事だもの」
「さすがまゆみさん、えらーい! あたしだったら、断っちゃってますよ。若くてかっこいい人だったらしちゃうけど、オヤジは無理。キモイもーん」
何がおかしいのか、ゲラゲラ笑う。あたしも合わせて笑う。
それにしてもやっぱり、よくしゃべる子だ。そして、しゃべることのすべてが、不愉快に耳にまとわりつく。
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