Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第5話>
<第5回目>
帰ってくると、マンションの部屋に明かりがついていた。1階の1番端っこ、一人暮らしのはずのワンルームが明々として、在宅を示している。
要が来ている。このところお互い忙しくて、しばらく会えなくて、なんだかんだで2週間ぶりぐらいだ。
身体の疲れが一気に取れて、ロビーを横切る足が軽くなる。
要は背中を丸めた前かがみの姿勢で浅くソファーに座っていて、入ってきたあたしを見てちらっと目を上げ、「おかえり」と言った。
そしてすぐ、暗い目をフローリングに落とし、俯いてしまう。その目の暗さにも、丸まった背中から立ち上る悪い予感にも気付かずにはいられなくて、心臓が引きつった。
「どうかしたの?」
「いや」
要はあたしの目を見ない。そんなにきっぱり跳ねつけられ、話さないことを決められてしまうと、こっちから何も出来なくなった。
あたしは怯えながら、逃げるようにキッチンへ向かう。
「コーヒー、入れるね」
付き合い始めて三周年の記念に買ったおそろいのマグカップを、カップボードから取り出しながら、考える。
2人の恋が始まってそろそろ4年。こんなに時間が経ってるんだ……。
あたしはちっとも要に冷めてなんかいないけれど、要はそうじゃないのかもしれない。
あたしに飽きて、他に好きな人が出来たっておかしくない。あたしがもっと魅力的で、時間に負けずにいつまでも要をドキドキさせられる女の子だったらいいけど、実際そうじゃないんだから、心変わりされたって文句は言えない。
とりとめのない思考が指先から力を奪い、インスタントコーヒーの瓶が落ちて粉末が床を汚す。派手な音に要が一瞬ソファーから腰を浮かせて、こっちを見る。
「ごめん、すぐ片付けるから」
ティッシュで粉を集めようとしたけれど、あんまりうまくいかなくて、雑巾を取りに走る。かがんで手を動かすあたしに要が近づいてきて、手伝ってくれるのかと思った。
でも要は一緒に雑巾を動かそうとせずに、立ったままあたしを見下ろして、どこか気の抜けたような声で言った。
「お前、風俗やってたんだな」
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