Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第6話>
<第6回目>
その一言で、あたしは動けなくなる。
時が止まったはずなのに、2人で選んだ三日月の形の壁時計が、カチカチとうるさい。
ずっと恐れていたことだった。
こんな日が来ないよう、4年もの間ずっと演技をして、嘘に嘘を重ねて、要を騙していた。
騙すことに罪悪感がなかったわけじゃないけれど、こんな形で発覚して一生信頼を失うより、ましだった。
バレないために、ありもしない社内でのトラブルをでっちあげたり、いもしない同僚や上司の存在を作り上げたり、要の前で架空のOLライフを面白おかしくしゃべっていた。
普通のOLにはなったことがなくても、普通のOLのフリならいくらでも出来た。
悲しいくらい、あたしは嘘が上手かった。
でも最近、油断していた。4年もの間バレなかったせいで、この先もずっとバレないと高をくくっていたんだ、どこかで……。
要がひとつ、大きく息を吐いた。
「タケが見たんだ。お前が、店から出てくるところ」
タケというのは要の同僚で、あたしも一度、一緒にバーベキューパーティーをしたことがある。
背が高くて色が黒くて、華奢な要と違ってがっしりした、大きな声でハキハキしゃべる人だった。
いい人、という印象しかないけれど、タケさんは今回も“いい人”として、自分が見た信じられない事実、……いや信じたくない事実を、要に告げたに違いない。そこには正義しかない。間違ってるのは、あたしだ。
「タケ、確認のためにもう1回行ったんだよ、店に。そしたら入り口のボードにお前の写真が貼られてたって。間違いなく、香耶だったって」
「……」
「これも、見つけた。顔なんか出しちゃって。俺には絶対バレない、わかるわけないって思ってたのか?」
要が、ジーンズの後ろポケットに折りたたんで入れていた風俗情報誌を広げ、投げやった。
薄っぺらい紙には、あちこち折り目が出来て、今にも破れそうだ。左上にはうちのお店の名前と、ナンバーワンの清美、ナンバーツーのりさ、ナンバースリーのやよい、そしてナンバーフォーのあたしの写真が出ている。
最初はこういう情報誌やホームページの顔出しは富樫さんにいくら頼まれても一切断っていたんだけど、このところ気が緩んで、顔出しに寛容になっていた。
あたしがこの仕事をやっているとバレたくない相手、バレちゃいけない相手は、つまるところ要だけで、要がこんなお店の広告なんて見るはずなかったから……。それに宣伝に写真を使ってもらえば、お客さんは確実に増える。
そんな言い訳をしようものなら、要は余計に傷つくんだろう。
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