Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第7話>
<第7回目>
要のテノールの声が震える。
「どういうことなんだよ。お前、OLじゃなかったのかよ。俺に嘘ついてたのかよ」
「ごめん……」
「ごめんって言われても」
要が頭を抱える。
怯えた心臓がバクバクと高鳴り、不吉な鼓動があたしの身体を飲み込んでいった。
油断なんかするべきじゃなかった。
今までバレないからこれからもバレないなんて、そんな保障、どこにもなかった。後悔したってどうにかなるわけじゃないけれど、後悔せずにいられない。
「いつからだよ」
「要と付き合う前から……。もう4年近い」
「マジかよ」
要がもう一度、深く息をついた。
ダメだと思った。あたしの想像通り、これで要は2度と、あたしを信頼してはくれないだろう。
いつかは言わなきゃいけないって、ちゃんとわかってた。こうやってバレる前に、自分から言うべきだって。
でも、要の顔を見たら何も言えなくなるし、要を悲しませたり傷つけたりするのは嫌だし、要に嫌われるのは怖いしで、結果、嘘をつき続けてた。
嘘をついていてずっと苦しかった。
いや、違う。ばれなきゃいいと思ってたのは本当で、好きな仕事でこそなかったものの、今の安定した生活を壊したくなかった。
もうちょっとしたらやめなきゃ、あと1年以内にやめなきゃ、早く本当に普通のOLにならなきゃ……。とは思うばかりで、何ひとつ自分の状況を変えられなかった、変えようとしなかった。
「親にはなんて言ってるんだよ」
「連絡、取ってない。もうずっと」
「最悪だな」
吐き捨てるような言葉に、胸を抉られる。
渇いた涙が頬を濡らした。カップボードのガラスに惨めな泣き顔のあたしが映った。
「ごめん。もう無理だよね、あたしたち」
こち。こち。こち。
止まった時間の中で、三日月形の時計の呟きを聞きながら、あたしに下される判決を待つ。
この状況で捨てられたくないなんて、終わりにしたくないなんて、そんな虫のいいこと、言えなかった。
言っちゃいけなかった。
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