Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第8話>
<第8回目>
要が掠れた声を出した。
「風俗、やめる気はないのか?」
顔を上げると、要も泣いていた。
正確に言うと、泣く一歩手前で涙をとどめていた。涙のせいで1.5倍ほどに膨らんだ瞳が、あたしを見下ろしている。
「風俗やめて、まともな生活する気はないのか?」
「……そうしたいけど、あたしには無理」
「なんでだよ!! なんでそんな、やってもみる前から決め付けるんだよ!」
激しい感情で、声が割れる。
要は怒っていた。ひどく傷ついたから、その分、怒っていた。
あたしの嘘に、あたしが多くの見知らぬ男に触れられていたことに、怒ってくれていた。
それが要の愛情だとわかるから、こんな状況なのに、ちょっと胸が熱くなる。
「香耶はこのままでいいのかよ? ずっとあんなこと続けるのかよ? 一生風俗嬢でいいのかよ?」
「……よくない」
「よくないだろ? 香耶だってわかってるんだろ? だったら、頑張れよ。俺は応援するから」
要が後ろから抱きしめてきた。
今までに私を抱いた幾人もの見知らぬ男の手垢を、まるでこすり落とすかのように、乱暴に全身を撫でる。腕も脚も、背中もお腹も、胸もお尻も……。
要の手は、あったかい。要の手だけに触れられる生活は、他の誰にも触れられない生活は、どんなに素晴らしいだろう。
「ありがとう……」
その後、要はちくしょう、ちくしょうと何度も繰り返しながら、あたしを抱いた。
あたしは、ずっと泣いていた。
床に散らばったままのインスタントコーヒーの粉末が、ぷんと部屋を染めていた。
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