Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第8話>

2014-02-15 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,103 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Kaya 連載小説 風俗嬢の恋


 

夜這いの宿

 

<第8回目>

 

要が掠れた声を出した。

 

「風俗、やめる気はないのか?」

 

顔を上げると、要も泣いていた。

 

正確に言うと、泣く一歩手前で涙をとどめていた。涙のせいで1.5倍ほどに膨らんだ瞳が、あたしを見下ろしている。

 

「風俗やめて、まともな生活する気はないのか?」

「……そうしたいけど、あたしには無理」

「なんでだよ!! なんでそんな、やってもみる前から決め付けるんだよ!」

 

激しい感情で、声が割れる。

 

要は怒っていた。ひどく傷ついたから、その分、怒っていた。

 

あたしの嘘に、あたしが多くの見知らぬ男に触れられていたことに、怒ってくれていた。

 

それが要の愛情だとわかるから、こんな状況なのに、ちょっと胸が熱くなる。

 

「香耶はこのままでいいのかよ? ずっとあんなこと続けるのかよ? 一生風俗嬢でいいのかよ?」

「……よくない」

「よくないだろ? 香耶だってわかってるんだろ? だったら、頑張れよ。俺は応援するから」

 

要が後ろから抱きしめてきた。

 

今までに私を抱いた幾人もの見知らぬ男の手垢を、まるでこすり落とすかのように、乱暴に全身を撫でる。腕も脚も、背中もお腹も、胸もお尻も……。

 

要の手は、あったかい。要の手だけに触れられる生活は、他の誰にも触れられない生活は、どんなに素晴らしいだろう。

 

「ありがとう……」

 

その後、要はちくしょう、ちくしょうと何度も繰り返しながら、あたしを抱いた。

 

あたしは、ずっと泣いていた。

 

床に散らばったままのインスタントコーヒーの粉末が、ぷんと部屋を染めていた。

 

 

 




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