Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第10話>
<第10回目>
その日は、まったく手ごたえのない面接を終えて、うなだれながら本屋に入った。今日発売の求人誌を手に取り、めくる。
こうして見ていると、世の中には仕事が無数に溢れ返っていそうなのに、実際は不景気で、職にありつける人はとっても少ない。あたしもその一人。見せ掛けと現実とのギャップは、ものすごかった。
いくら読んでも目は文字を拾うばかりで、そこにある言葉はまったく意味をなさず、脳をスルーしていく。
小さく息をついて求人誌を元あったところに戻した時、右側から声をかけられた。
「香耶? ねぇ、香耶だよね?」
「……恵美?」
4年の月日をまたいで、ちょっと大人っぽく、垢抜けた恵美がそこにいた。野暮ったかった長い黒髪はバッサリ切って栗色に染められ、化粧も上手くなっている。でも、明るい性格を表すうきうきとした口元と、すべてを楽しそうに見つめる瞳は、変わってない。
「香耶じゃん。うわー久しぶり。会いたかったぁ!」
静かにすることが暗黙の了解の本屋で、恵美は大人らしくもなく、しばらくはしゃいだ。
あたしもはしゃいだフリをしていた。途方に暮れている内心はちゃんと押し込めて。
恵美は一年生の前期だけ、つまりたったの4ヶ月しか通わなかった大学で出来た、数少ない友だちの一人だ。
大学を辞めて風俗嬢を始めた頃、そんなこととはつゆ知らず、あたしを合コンに誘い、要と出会わせてくれたのは、この子だ。
携帯を変えた際に連絡先を教えず、ずっとメールひとつしなかったのは、単純に会いたくなかったから。
恵美を嫌いになったとかそういうことじゃなくて、こんなふうに再会するのが嫌だったのだ。
「ねぇねぇ、今、何やってんの?」
ほら、やはりその質問が、来た。
恵美に悪気はない。まさかあたしが風俗をやってるなんて、思いもしないだろうから。
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