Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第11話>
<第11回目>
「えっと……。前やってた仕事辞めて、今は求職中」
「そうなんだ。もー、心配してたんだよー。いきなり大学辞めちゃうし。携帯は通じなくなるし」
「ごめん」
「メアド変えたら教えてくれたっていいのに!!」
「そうしたかったんだけど、携帯が水没しちゃって……。データ、全部消えたもんだから」
「あぁ、アレ? 困るよね、あたしも1度やったことあるー!」
4年前、キャンバスの中で見ていたのとまったく変わらない笑顔が目の前にあって、胸がチクチクとする。
だから、嫌だった。このチクチクを味わいたくないから、再会を嫌った。
恵美は悪くない、恵美はちっとも悪くないけれど、表の世界でまっとうに生きている人と向き合っていると、その人と自分とのギャップに胸がつぶれそうになる。自分がどれだけダメな人間か、思い知らされてしまう。
「恵美は今、何してるの?」
「スタイリスト。……っていっても、まだ、見習いだけどね」
「えー! すごい!!」
「別にすごくなんかないよ。しかし、よかったぁ。香耶もちゃんと働いてたんだね」
なんにも知らない恵美の無邪気な言葉が、心の一番敏感な部分にめり込んだ。
本屋を出て、改めてアドレスを交換してから、道端で別れた。
数歩歩いてから振り返ると、背筋のしゃんと伸びた恵美の背中がまだ人ごみの中にまだ見えて、息苦しくなる。
あたしは恵美みたいな、きちんとした、当たり前の大人には一生なれない。
人間、いつでもやり直せるなんて嘘に決まってる。そのタイミングでするべきことをしないで通り過ぎてしまったら、あとから取り戻すことなんてとても出来ないんだ。
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