Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第15話>
<第15回目>
石坂さんがまた深いため息をついた。
「まったく、あの人の紹介だっていうから、悪い予感してたのよね。どうせ、あなたも風俗嬢なんでしょ?」
思わず俯けていた顔を上げると、石坂さんは、黒く腐って蝿のたかった生ゴミでも見つめるように、あたしを見ていた。頭の後ろがすうっと冷えていく。
こんなところでそんなことを言ったら、パーテーションの向こうのみんなに聞こえる。
この人はそんなこともわからないんだろうか?
いや、違う。わかってて言ってるんだ……。
もっと言えば、あたしが風俗嬢だったって、バレてないと思ってたのはあたしだけで、石坂さんにも他の人たちにも、とっくに知れ渡ってたのかもしれない……。
初日からの、いつも意識的に距離を置いているような、同僚の態度を思い出す。
「あの人――、親会社の社長のことね。風俗行って自分が気に入った女の子の職、世話しまくってるのよ。裏社会に落ちた子の社会復帰とか言って。とんでもない自己満足よね。仕事出来ないの送り込まれて、迷惑するのは誰だと思ってるんだか。みんな、1週間もすればフラリと来なくなるし」
「……」
「だいたいそういうことなら、自分のとこで雇えばいいのに、なんでわざわざうちなのかしら。どうせ使えないって分かってるから、自分のとこで雇うのが嫌なんでしょうね」
やめて、これ以上言わないで!
言われれば言われるほど、あたしが惨めになる。自分がどんなにダメな人間か、もう十分わかってる。
だからこれ以上、思い知らされる必要はないし思い知らされたくない……。
握り締めた手が無意識のうちに震えて、それをあざ笑うように石坂さんが唇を歪めた。
「まったく、風俗嬢なんてダメよね。世間に顔向けできない仕事して、男に媚びて生きてる人間なんて」
「……」
「そんなに寄らないでよ。あなた、どんな病気持ってるかわからないんでしょう?ちょっと離れて」
その瞬間何かがはじけ飛んで、世界がひっくり返った。
いや、ひっくり返ったのはあたしかもしれない。
信じていた何かが壊れて、世界の見え方が変わった。
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