【連載小説】Rizu〜風俗嬢の恋〜<第1話・第2話>
<第1話>
あたしのバイト先は “ピンサロ”
バーゲンで買った4900円のハイヒールの中で、Sサイズの足が悲鳴を上げている。
大学でも、電車の中でも、駅を出て歩き始めてからもずっと我慢してたけど、もう限界。
一歩進む度、皮膚がこすれてむき出しになったかかとの肉に、固いエナメルが食い込む。
日が暮れたばかりの薄闇の向こうに、目的地の青いネオンが見える。もうひと息。
そこの角を曲がればすぐ。少し休もうよと泣き言を言うかかとを叱って、足を速める。
大学の最寄り駅から各停で二つ目、改札をくぐって徒歩八分。
居酒屋やキャバクラ、ガールズバー、個室ビデオなんかに混ざって看板を掲げるそのお店が、あたしのバイト先。
女の子はお客さんが入ってくる表口からじゃなくて、隣のビルとの隙間を潜り抜けて裏口から入る。
あたしと入れ違いにダンボール箱を抱えた男の子数人が出てきて、
出勤中の風俗嬢に好奇心と同情が混ざった遠慮がちの視線を当て、おずおずと会釈する。
誰かがこんにちはー、と戸惑いを含んだ声で言う。
駅前でお店の名前が入ったティッシュを配る仕事をしているこの男の子たちは、
同じ店で働きながらまったく違う世界で生きている(ように見える)あたしたちと、
どう距離を取ったらいいのかわからないらしい。
彼らに浅い会釈を返しながら裏口、つまり控え室の安っぽいドアを開ける。
女の子たちのクツがぎっしり並べられたたたきは畳三分の一枚ぐらいしかなくて、ひどく狭い。
モスグリーンのごわごわした絨毯が敷き詰められた室内は、
黄ばんだ壁に沿ってロッカーがぎっしり並べられ、
端っこには上下のセーラー服とルーズソックスと上ばきが詰め込まれたプラチック籠がある。
セーラー服もルーズソックスもここ数年めったにお目にかかれないのに、これがうちの衣装。
こういうお店のメインの客層である中年男性は、未だにライン入りのセーラー襟やルーズソックスに興奮するらしい。
<第2話>
セーラー服姿の裕未香が部屋の隅でタバコを吸っていた。
170センチ近い長身に茶髪のショートカットがよく似合うきりりとした顔立ち、
女の子から見ればなかなかの美人だけど、ロリコン好みのお客様たちには大人びた容姿も
サバサバした性格もウケないのか、お店での人気はそこそこといったところ。
口からタバコを離し、クツを脱いでるあたしの足元を見て言う。
「そのクツ可愛い」
「すごく歩きづらいよ、安かったからかな」
「いくら?」
「バーゲンで4900円」
「安っ。理寿さー、稼いでるんだからもっといいクツ買いなよ」
と、白い煙を揺らして笑う。先月のあたしの収入は60万を超えた。
二十人近くの女の子が在籍するこのピンサロでは、ナンバーワンの稼ぎだ。
ピンサロ、ヘルス、ソープ、SMクラブに性感マッサージ。
ひと口に風俗といってもいろいろあるけれど、ピンサロはその中でも一番初心者向けの、
風俗嬢になるならまずはここからと言われる、「ライト」なお店だ。
天井でミラーボールが回り、大音量のトランスミュージックが流れる店内は六つのボックス席に分かれ、
マンガ喫茶の中のような狭い空間で女の子といやらしいことができるって仕組み。
いやらしいことってつまり、「本番」以外ならなんでも。
キス、フェラ、ペッティング、クンニetc。女の子によってはキスがダメって子もいるけど、
たいてい仕事してれば40とか50の脂ぎった男の人にぶちゅうとやられてしまう。
料金は30分6000円、指名は一本2000円。女の子の取り分は半分。
働いてるのはほとんどが18か19か20の若い子ばっかりで、
セーラー服を着ればみんなちょっとすれた女子高生にしか見えない
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