Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第18話>
<第18回目>
上京してほどなく、大学に行けなくなった。
適当に話題を合わせて、愛想笑いばかりして、本当の気持ちが全然言えない人間関係。
それが、寂しかったんだと思う。寂しくて、寂し過ぎたんだと思う。
部屋の隅っこで膝を抱えていた不登校児の頃より、周りに「友だち」という名の無数の他人がいるほうが、孤独だった。
大学に通い始めて3カ月目で、病気になった。
学校に行く途中の道で呼吸が速くなり、肺が言うことを聞かなくなって、やがて苦しさに耐え切れず道端に蹲ってしまう。
病院ではパニック障害だと言われ、なんだか怪しげな薬をもらった。薬はちっとも効いた気がしなかったけど、休学届けを出して大学から距離を置いた途端、症状はぴたりと止んだ。
田舎の両親にドロップアウトしてしまったことをなんて言おう、これからどうやって生きていこう……? そう、途方に暮れて歩いていた町かどで、富樫さんに声をかけられた。そして、スカウトされるがまま風俗の仕事を始めた。
親のことはずっと気がかりだったけれど、携帯を変えて、引越しを2回しただけで、親子の繋がりは呆気なく絶たれてしまった。
連絡がつかなくなったあたしを、どんなに心配しているだろう? 今頃きっと血眼になってあたしを探しているだろう?
そう思えば、ちゃんと胸は痛む。
だからって、こんな生き方をしているあたしを見たら、それ以上に苦しめてしまうに決まってる。
「元気でやってるよ」って、嘘をつき続けられる自信もない。
決して嫌いな故郷じゃなかったけれど、帰るに帰れなかった。
白くて眩しい9月の太陽から逃げるように、ドーナツ屋さんに入って、アイスコーヒーを注文した。平日の昼間だっていうのに、お客さんが多い。
右隣のテーブルには、あたしと同じ歳くらいの女の子2人が、向かい合って、のべつまくなしにしゃべっていて、時々元カレとかメールとかいう単語が聞こえてくる。
左隣のテーブルにはやっぱりあたしと同じくらいの女の子と、そのお母さんと思われる40歳代後半ぐらいの女の人の2人組。実家にいた頃、この2人みたいにお母さんと向き合って、リビングのテーブルでしゃべってたことを思い出して、喉の奥がちぎれるように痛んだ。
右隣の女の子たちも左隣の親子も、外からはうかがい知れない深い悩みを抱えているのかもしれない。
もしかしたらそれによって夜も眠れないぐらい苦しめられているのかもしれない。
でも、あたしには、あたし以外の人たちはみんな、幸せそうに見える。
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