Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第20話>
<第20回目>
あたしが辛いとか辛くないとか、そんなこととはまったく無関係に世界の中は、動いていく。
携帯を引っ張り出し、着信履歴から要を呼び出す。仕事中だから当然、まもなく留守電に切り替わる。仕事が決まったと言った時、自分のことのように喜んでくれた要の笑顔が瞼の裏でちらつく。
要が大好きだった。
ずっと嘘をついていたけれど、4年も騙し続けていたけど、「好き」の気持ちに嘘なんてちょっともなかった。要を本当に愛してるから、要をこれ以上悲しませちゃいけない。
数秒のためらいの後、唇が震えながら言葉を振り絞る。
「ごめん、要。あたし、要とはやっぱり一緒にいられない。風俗嬢としてしか、生きていけないみたいなの。さよなら」
それだけ吹き込んだ。
もう要の声を運ぶこともない携帯が、プツンと通話終了を告げる。
あとはメモリーを消して、部屋から要のものを全部処分して、合鍵で入ってこれないように鍵を付け替えて……。そうすれば、要とは終われる。
顔を見て話していたらきっと決心が崩れるから、こんな方法を取るしかない。
要の隣は、初めて見つけた心からほっと出来る場所だった。
その唯一の居場所を、あたしは自分の弱さのせいで捨てなきゃいけない。
悲鳴を上げる涙腺に、ぎゅっと力を入れた。
要が認めてくれるような、立派な大人になんかなれないけれど、せめて公共の場で泣かないこと。傍目にはちゃんとした、普通の女の子に見えるように振舞うこと。
それが、今のあたしに出来る精一杯だった。
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