Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第21話>
<第21回目>
隣でセーラー服に袖を通すあたしに、ゆかは笑って言った。
「おかえりなさい、出戻りさん」
「……何それ、嫌味?」
言ってはみるものの、今のがトゲトゲした嫌味だなんて、本気で思ってない。
顔を見合わせ、あたしはいたずらが見つかった子どものように、ゆかは悪事を見抜いたその友だちのように、ほろっと口元を緩める。
「ま、頑張りましょう。今日から、また」
「そうね」
ゆかは、明るい。
ゆかだってあたしと同じで、きっといろいろあるだろうに、いいことばっかりじゃないだろうに、いつだって明るい。その明るさに、すごく救われる。
友だちと言うには距離があり過ぎるけど、でも、他人とは確実に違っていて、ちゃんと同じ糸で繋がれている。
清美以外とはあまり親しくしてなかったのもあって、同じ店で働く女の子というのは、微妙な関係だ。こういうの、同じ穴のムジナって言うんだろうか。
要がいなくなってから、誰とも繋がれていないのが心細かった。
親とはずっと連絡を取ってないし、仕事もなくなってしまたし、大事な友だちは死んでしまった。
でも、あたしの居場所はたしかにここにあった。好きな仕事じゃなくても、身体を売るような汚い仕事でも、そういう場所があるだけ、いいんだと思う。
フロアに出て休憩室に入った途端、富樫さんが長い身体を半分だけ狭い部屋の中に突っ込んで、言った。ちょうど、ゆかがピンクのラインストーンで飾ったライターでタバコに火をつけた時だった。
「今電話あって、ゆか、一時から予約。写真指名。で、まゆみは一時十五分から、本指名ね」
「はーい、これ吸い終わったら準備しまーす」
富樫さんが忙しそうにフロアに戻っていって、ゆかがふうぅ、とため息のように煙を吐き出す。
「知ってます? 富樫さん、結婚するんだって」
「えっ」
「まださおりさんが死んで1カ月ですよ。すごい度胸ですよね」
そう言って、何かを思いっきり突き放したみたいな目で天井の梁の辺りを見上げる。
強いて考え込まないようにしていたことが、頭の中をいっぱいにする。
富樫さんは清美をどう思ってたんだろう? どんなふうに接していたんだろう? 四年も付き合ってたんだ。たとえ愛していなくたって、愛が冷めてたって、人としてちゃんと向き合ってほしかったし、そうするべきだった。
いや、富樫さんばっかり責めるのも、きっと間違いだ。
最近の清美はあたしの目から見ても、ゆかやりさにあからさまな嫌がらせをしたり、お客さんに当たったり、ちょっとおかしかったから。そんな清美と一緒にい続けて、富樫さんは疲れてしまったのかもしれない。
だからって仮にも彼氏なんだから、清美が死なないように、もっと頑張ってほしかったけれど。
……ううん、それも違う。
あたしは清美の親友だったんだ。責任は、あたしにもある。
清美だけのせいでも、富樫さんだけのせいでもないけれど、あたしだって責められなきゃいけない。
親友として当然すべきことを、しなかったんだから。
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