Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第22話>
<第22回目>
「あたし、清美に言わなきゃいけなかったよね。富樫さんなんて、やめとけって。富樫さんはちゃんと清美のことを見てない、傍目にもわかるよって。そういうこと言えるのは、友だちだけだし」
ゆかが灰を落としながら、小さく首を振った。
「無意味ですよ、そんなの。恋愛して舞い上がってる時に、女友だちの忠告なんて、右から左だし」
「うん。1度だけ、2人の時にさりげなく、ごくかるーい感じで言ったことあるの。富樫さん、本当に清美のこと好きなのかなあ? って」
「そしたら?」
「何それ、どういう意味? あんたにはそんなこと関係ないでしょ、ほっといてって、キレられちゃった」
「やっぱり」
幅は広いけれど細い、ゆかの肩が上下する。
さんざん清美にいじめられてたくせに、清美が死んだとあたしに聞かされて、ぼろぼろ泣くやよいを抱きしめながら、自分も目を潤ませていたゆかの姿を思い出した。
ゆかは清美を怖がってたかもしれないけれど、清美を心底嫌ってたわけじゃないんだと思う。
むしろ哀れんで、可愛そうに思ってたんじゃないだろうか。
「でもね、言うだけ言わなきゃいけなかったんだろうなって、今思うの。それであたしと清美の仲が崩れたとしても。友だちってそういうものじゃない? もし、あたしが言うべきことを言ってたら、変わってたかな? 清美、死ななくて済んだのかな?」
清美に嫌われたくないから、富樫さんとの付き合いをやめさせられなかった。
要に嫌われたくないから、嘘をつき続けた。
あたしはいつもそうだ。人に嫌われたくなくて、人に嫌われるのが怖くて、怖がり過ぎるばっかりにかえって大事なものを壊してしまう。
ゆかが言う。
「たとえまゆみさんがそうしても、どうにもならなかったと思います。さおりさんが死んだの、本当は富樫さんのせいじゃないですよ」
「……」
「まゆみさんなら、わかるんじゃないですか?」
「そうね」
清美を押しつぶしたものは、あたしや、ゆかの背中にも乗っかっている。
清美はきっと、うまく生きられない自分に、うまく生きることのできない人生に、絶望したんだ。
入り口のドアを開け閉めする音がして、ゆかが慌ててタバコを消し、準備を始めた。まだ白い煙が残る休憩室の中で、あたしは壁にもたれ、薄く目を瞑る。
自分の人生なのに、自分が主人公じゃない。
誰かや何かに操られてばっかりで、何ひとつちゃんと選べてない気がする。
あたしだけなんだろうか。あたしが弱くて不器用過ぎるだけなんだろうか。
それともみんな、そうなんだろうか。
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