Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第27話>

2014-03-06 20:00 配信 / 閲覧回数 : 1,278 / 提供 : 櫻井千姫 / タグ : Kaya 連載小説 風俗嬢の恋


 

JESSIE

 

<第27回目>

 

「あたし、系列のソープに移るんです。あと2週間、したら」

 

やよいが寝言のような、はっきりしない声を出した。

 

「うそ? やよいちゃんが?どうして……」

「お金、いるから」

「分かってる? ソープって本番あるのよ?」

「知ってます」

 

なんのためにお金がいるのか、なんでそんなことをしてまでお金が欲しいのか、聞けなかった。

 

聞いたら、おそろしい言葉が出てくる気がした。

 

代わりに、やよいを抱きしめていた。

 

ウエハースのなくなった空の袋がガイコツのような指を離れて、床に落ちた。

 

「まゆみさん……?」

 

やよいは驚いてたし、あたしも驚いてた。

 

なんでこんな思い切ったことをしちゃったんだろう?

 

抱きしめたはいいものの、どうしたらいいのか、どうすればいいのか、まるでわからない。

 

だからあたしは、ただ心に浮かんだことを言うだけだ。

 

「やよいちゃん、死なないでね。あたしも死なないから」

「……はい」

 

やよいがあたしの腕の中で呆けたように頷いた。涙で目の前が曇っていく。

 

立派な生き方なんて、とてもじゃないけど出来ない。

 

ただ、生きる。死なないで、生きる。

 

そして目の前にいる人を、生かす。

 

生かすために、とにかく頑張る。

 

もう清美の時のような思いは二度としたくないから。

 

それが、あたしの精一杯。自分の出来る精一杯を、一生懸命、やろう。

 

革靴の音が近づいてきて、休憩室に入ってきた富樫さんと目が合った。やよいがそろそろと身体を離す。

 

ぎょっとした目が、涙目のあたしと、抱きしめられていたやよいをかわるがわる見た。

 

「あ、えっと。やよい、4番ボックスね」

「はい」

 

やよいもきっとどうしていいのかわからなかったんだろう、おしぼりを落としたり、段差につまずいたりしながら、そそくさと休憩室を出て行く。

 

 

 

 




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