Kaya〜風俗嬢の恋 vol.5〜<第27話>
<第27回目>
「あたし、系列のソープに移るんです。あと2週間、したら」
やよいが寝言のような、はっきりしない声を出した。
「うそ? やよいちゃんが?どうして……」
「お金、いるから」
「分かってる? ソープって本番あるのよ?」
「知ってます」
なんのためにお金がいるのか、なんでそんなことをしてまでお金が欲しいのか、聞けなかった。
聞いたら、おそろしい言葉が出てくる気がした。
代わりに、やよいを抱きしめていた。
ウエハースのなくなった空の袋がガイコツのような指を離れて、床に落ちた。
「まゆみさん……?」
やよいは驚いてたし、あたしも驚いてた。
なんでこんな思い切ったことをしちゃったんだろう?
抱きしめたはいいものの、どうしたらいいのか、どうすればいいのか、まるでわからない。
だからあたしは、ただ心に浮かんだことを言うだけだ。
「やよいちゃん、死なないでね。あたしも死なないから」
「……はい」
やよいがあたしの腕の中で呆けたように頷いた。涙で目の前が曇っていく。
立派な生き方なんて、とてもじゃないけど出来ない。
ただ、生きる。死なないで、生きる。
そして目の前にいる人を、生かす。
生かすために、とにかく頑張る。
もう清美の時のような思いは二度としたくないから。
それが、あたしの精一杯。自分の出来る精一杯を、一生懸命、やろう。
革靴の音が近づいてきて、休憩室に入ってきた富樫さんと目が合った。やよいがそろそろと身体を離す。
ぎょっとした目が、涙目のあたしと、抱きしめられていたやよいをかわるがわる見た。
「あ、えっと。やよい、4番ボックスね」
「はい」
やよいもきっとどうしていいのかわからなかったんだろう、おしぼりを落としたり、段差につまずいたりしながら、そそくさと休憩室を出て行く。
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