フェイク・ラブ 〜Aimi〜<第2話>
<第2話>
『るいちゃん、お疲れー。大丈夫?』
るいって誰だ。私か。
もう半年間も週5で勤めているのに、未だに店がつけた源氏名に馴染めない。
時々自分が藍美なのか、るいなのか、わからなくなる。
「あんま大丈夫くないです」
電話の向こうで店長は、ふふっ、そっかー、そうだよね大丈夫じゃないよねー、と軽い返事。
ここで深刻になっても、より一層私が暗くなってしまうだけだろうし、明るい声で元気づけてやろうっていう配慮なんだろうけれど、私の苦しみを適当に扱われているようでカサカサに渇いた心がひりつく。
冨永さんがハンドルを切って、ワゴンの背もたれに預けていた身体がぐらりと揺れた。
バックミラーには、携帯電話を耳に当てている私の顔が左1/4ぐらいと、冨永さんの切れ長の目が映っている。
冨永さんは人の話を聞いていないようで聞いていそうだ。あんまり落ち込んでいると思われたくなくて、無理やり店長のテンションに合わせる。
「ほんともう、嫌になっちゃいますよー。いきなりチェンジとか言うんだもん」
『そうそう、ちょっとでも気に入らないとすぐそういうこと言うの、あの人。女の子の目の前でね。失礼だよねー』
「しょうがないです、私、ブスだし」
『なーに言ってるのさ。俺が客なら、毎回るいちゃん指名するよー』
もう、お上手なんだから、と口元だけで笑ってみせる。
店長はこうは言ってくれるけれど、この前チェンジを言い渡されて車に戻った時、ドライバーさんが「俺なら? 無理無理、絶対チェンジですよー」って電話でしゃべってるのを聞いてしまった。
店長から、もし私が来たらどうするかって聞かれてたに違いない。
その時のドライバーさんは冨永さんじゃない、もっと若くて前歯が欠けたチャラ男でいかにも風俗慣れしてそうな感じの人で、下品な笑いに歪んだ唇から覗くいびつな形の前歯が胸に刺さった。
だいぶこの仕事には慣れ(てしまった)けれど、私はこの世界の誰のことも信用していない。優しい店長もドライバーさんも他の女の子ももちろん客も。
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